改正薬事法施行 解熱剤や生理痛楽は本人ではないと買えない

2014.06.16 07:00
 
医薬品ネット販売

6月12日の朝。都内のドラッグストアに駆け込み、「ナロンメディカルありますか?」と、解熱鎮痛剤の名前を挙げると、薬剤師が「どんな症状ですか」と質問してきた。
 
「高校生の娘が熱を出して寝込んでいるんです」

そう説明すると薬剤師はちょっと困った表情を浮かべ、こう返してきた。
 
「この薬はご本人じゃないと売ることができなくなったんです。他の薬にされてはどうですか」

そして他の棚から、いくつかの別の鎮痛剤を出して「これなら代理の方でもお買い上げいただけます」と並べたのである。
 
「本人にしか売れない」といわれても、熱でうなされている娘に、「自分で買いに行け」といえるはずがない。そもそも、発熱や我慢できない痛みの際に服用する解熱鎮痛剤を「本人が買いに来い」とは理解に苦しむ対応だ。別のドラッグストアではこんな注文をした。
 
「エルペインコーワはありますか。家内に買ってきてほしいと頼まれたんです」
 
男は使わない生理痛の専用薬である。ここでも、薬剤師に「ご本人じゃないと」と、断わられた。
 
「いつもこの薬を飲んでいるそうです」と頼んでも、「法律でご本人以外に売ることはできなくなったんですよ」と申し訳なさそうに繰り返した。

実はこれらの薬、前日までは誰でも買えたものである。6月12日に改正薬事法が施行された。この改正法によって不条理な規制が国民に課されることになったのだ。

医薬品のネット販売解禁をめぐる昨年の大騒動を覚えている読者は多いはずだ。安倍晋三首相は昨年6月の成長戦略スピーチで「すべての一般医薬品の販売を解禁します」と宣言し、同12月に改正薬事法が成立、大新聞は〈薬ネット販売99%超解禁〉(日経新聞)などと報じた。

ところが、その結果生まれたのが国民の利便性を向上させる規制緩和とは正反対の、薬局での販売規制強化だった。
 
どんな法改正が行なわれたのか。改正薬事法では、薬局で処方箋なしで買える大衆薬の99.8%がネットで販売できるようになった代わりに、それまで薬局で誰でも買えた0.2%の薬(現在は20品目)が「要指導医薬品」という新たな分類に指定され、ネット販売できないだけでなく、薬局の店頭でも「本人への対面販売」が義務付けられた。
 
※週刊ポスト2014年6月27日号

参照元 :
NEWSポストセブン


市販薬 「薬局で購入=安心 ネットで購入=危険」は本当か

2014.06.29 16:00

6月12日から改正薬事法が施行され、「薬のネット販売解禁」と話題になった。だが、実際には解禁されていない品目がある。元キャリア官僚で規制改革担当大臣補佐官を務めた原英史氏(政策工房社長)は7月1日に発売される『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)の中で、ネット販売解禁の「例外」となった項目のおかしさについて解説する。

安倍晋三首相は2013年6月、成長戦略の決定に際して薬ネット販売について、「ネットでの取引がこれだけ定着した現代で、対面でもネットでも、とにかく消費者の安全性と利便性を高めるというアプローチが筋です。消費者の安全性を確保しつつ、しっかりしたルールの下で、すべての一般医薬品の販売を解禁いたします」と表明していた。

ところがその後、安倍内閣は「すべての」という方針を撤回した。処方箋薬(医師が処方する医療用医薬品)から大衆薬(薬局の店頭で販売される一般用医薬品)に転換して間もない医薬品(いわゆる「スイッチ直後品目」。議論が進められていた時点では23品目)と劇薬5品目については、「要指導医薬品」としてネット販売を禁止する方針を決めた。
 
政府は2013年11月12日、この「一部解禁」の方針を条文化して「薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律案」を提出。臨時国会で成立した。この政府の対応について、「特にリスクの高い品目は、慎重な対応が必要。劇薬など28品目に限って禁止、というのは仕方ないのでは」と考える人もいるかもしれない。

しかし、「なぜ、インターネット販売が薬局での対面販売と比べて危険なのか?」という点については不明確なままだ。

検討過程の資料では、要指導医薬品について種々のリスクがあって慎重な対応が必要であると示されている。例えば、花粉症などのアレルギー症状用の鼻炎スプレーについては次のようなものだ。

販売に際し情報収集・確認すべき事項として、「18歳未満でないこと」「妊娠していないこと」「アレルギーの有無、高血圧・糖尿病・ぜんそく・感染症などの有無」「ステロイド点鼻薬を過去1年で1か月以上使用したか」など17項目。
 
注意を促すべき事項として「頭痛・めまいの有無」「皮膚の発ほっ疹しん・かゆみの有無」「鼻汁が黄色や緑色など通常と異なる状態」など10項目。

合計27項目が挙げられている。たしかに、いろいろな確認とチェックが必要だが、本当に薬局で確認したら安全で、インターネット販売なら危険なのだろうか。むしろ薬局の店頭でこれら項目をすべて確認することのほうがよほど困難。インターネット販売ならチェック用の画面を設けて個別に確認できるから、より適しているはずだ。

そうした意見には、「薬剤師と患者さんとが直接顔を合わせてよく話し合い、薬剤師が患者さんの状態を五感を用いて判断し、販売する必要がある」(2013年10月29日の産業競争力会議分科会で紹介された「五十嵐座長メッセージ」)という反論が出てくる。

インターネットでは自己申告させることはできるが、患者が正確に自己申告できるとは限らない。だから薬剤師が「五感」を用いて本人の状況を直接感知することが重要……ということだ。

ただ、先ほどの鼻炎スプレーの27項目を見ても、「五感」を用いないと判断できない項目がどれなのか、さっぱりわからない。「皮膚の発疹」は対面なら発見できるかもしれないが、薬局で全身チェックできるわけでもない。

強いて言えば、「鼻汁の色」くらいだが、それも本人が自分で十分識別できそうなものだ。本当にそのためにインターネット販売を禁止するほどの意味があるのか甚だ疑問だ。

ちなみにこの「五感で判断が必要」という主張は、これまでの議論の経過でたびたび出てきた。筆者は従来から「薬局に家族が薬を買いに来たら、五感での判断はできない。家族が買いに来ることは禁止されていないのだから、論理矛盾だ」と反論してきた。

6月12日施行の改正法では、この反論を封じようということなのか、家族が買いに来ることまで禁止してしまった。すべて「鼻汁の色」のチェックのため……というのが本当に合理的なのだろうか。

※原英史・著『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)より

参照元 :
NEWSポストセブン