英国、2040年からガソリン車とディーゼル車を販売禁止へ=現地紙

2017/7/26(水) 9:00配信

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[ロンドン 25日 ロイター] - 英政府は、2040年からガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を26日に発表する見通し。大気汚染対策の一環で、電気自動車(EV)への完全移行を目指す。現地有力紙などが報じた。

フランス政府も先に、40年までにガソリン車とディーゼル車の販売終了を目指す方針を発表している。

英紙タイムズによると、英政府はモーターとガソリンあるいはディーゼルエンジンを組み合わせたハイブリッド車(HV)の販売も40年までに終了する方針。

デイリー・メール紙は、20年からは、最も大気汚染が深刻な道路で大気質の改善が見られない場合、地方自治体がディーゼル車に課税することが可能になると伝えた。

参照元 : ロイター


フランスがガソリン車の販売を禁止する真の理由 産油国は低価格戦略で対抗するしか道がないのか

2017年7月27日(木)

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7月6日、フランスのユロ・エコロジー大臣(環境連帯移行大臣)は、2040年までに、二酸化炭素の排出削減のため、国内におけるガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止すると発表した。

具体的内容やそこに至る道筋など詳細は明らかにされていない。また、EV(電気自動車)の走行距離やバッテリー寿命など技術的課題、そして給電インフラや産業構造転換など社会経済的課題が現時点では解決されていないことから、実現は難しいとする見方もある。

しかし、フランス政府の発表は、G7の先進国政府として初めての、内燃機関自動車の販売禁止方針の表明である(7月26日には英国も2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出した)。そして、パリ協定離脱を宣言した米トランプ大統領が初めて出席するG20(7月上旬にドイツ・ハンブルグで開かれた20カ国・地域首脳会議、以下G20ハンブルグ会議)とフランス訪問の直前という絶妙のタイミングで、最大の政治的効果を狙って打ち出された、マクロン仏新大統領の決断であった。

本稿では、このフランスの発表の狙いと背景を分析するとともに、今後の産油国、特に三大産油国の対応について検討してみたい。

パリ協定の性格

2017年6月1日、トランプ大統領は、選挙公約に従って、米国のパリ協定からの脱退を発表した。ただ、実際の脱退は、発効3年後から通告可能で、通告の1年後に効力を有することから、将来の話になる。

そのトランプ大統領のG20ハンブルグ会議とフランス訪問の直前のタイミングで、パリ協定のホスト国として、地球温暖化対策の積極的推進を表明し、リーダーシップを取ろうとしたマクロン大統領の政治的決断は「凄い」というほかない。

特に近年、EU(欧州連合)内では、メルケル独首相の主導権が目立ち、フランスの影が薄くなっていただけに、マクロン大統領の国際的な発言力強化につながるものであった。環境立国は、EUとしての未来戦略でもある。

パリ協定は、2015年11〜12月にパリで開催された、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で締結され、16年11月発効した国際条約である。しかし、パリ協定は、同床異夢の産物であり、内容が十分に整合的であるとは言い難い。

パリ協定では、まず世界共通の長期削減目標として、産業革命前からの気温上昇を2度(可能ならば1.5度)未満に抑制するとし、先進国だけでなくすべての国が削減目標を自ら策定し、国内措置を履行、5年毎に目標を提出することとした。

ところが、各国目標が達成されても、削減量が大きく不足し、全体目標は達成できないことから、各国は5年ごとに目標を見直し、これを強化していくこととされている。「グローバル・ストックテイク」と呼ばれる一連の仕組みだ。

COP21終了後、会議報告を聞いた時、環境NPO・環境省関係者は2度目標の合意を、産業界・経産省関係者は各国目標の履行を強調していた。筆者は同じ会議の報告とは思えなかったことを記憶している。当然、EU各国は、全体目標の実現を重視している。

ディーゼル車の行き詰まり

実は、米国は脱退するまでもなく、パリ協定で自ら課した削減目標(2025年に2005年比26〜28%削減)の達成は何ら難しいことではない。シェール革命により、米国内の天然ガス(パイプラインガス)価格が下がり、火力発電用燃料は石炭からガスにシフトしており、二酸化炭素排出量は順調に減り続けている。

したがって、トランプ大統領がいくら石炭復権を叫んでもその実現は難しい。米国石炭産業の後退は、パリ協定ではなく、シェール革命によるものである。そのため、トランプ大統領にとっての問題は、目標見直し時の目標の緩和禁止規定の解釈の問題に過ぎないとする指摘もある。

確かに、地球温暖化対策は人類の持続的発展にとって喫緊の課題ではあるが、先進工業国において、現時点で、現状の自動車産業を否定する政策方針を打ち出すことは、驚きである。

現在の自動車産業は、エンジンをはじめ部品点数も多く、関連産業のすそ野も広く、雇用に与える影響も大きい。日本自動車工業会によれば、車体・部品関連の製造業雇用者だけで約80万人、販売・サービス等の自動車関連産業全体では550万人の雇用者があるといわれる。それに対し、EVは、モーターを中心に部品点数も少なく、雇用吸収力も必ずしも大きいとは言えない。わが国では、こうした決定を国民的議論なしに突如発表することは無茶な話だろう。

現時点で、フランスが内燃機関自動車の禁止方針を打ち出した背景には、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)による米国燃費規制違反を契機とするディーゼル乗用車の技術的限界もあるのであろう。7月18日には、独ダイムラーが燃費規制とは無関係としつつも、「メルセデス・ベンツ」ブランドのディーゼル車の大規模リコールを発表したところであり、また、7月5日には、スウェーデンのボルボも2020年には販売全車種を電動車にすると発表している。

伝統的に、フランスを代表する自動車会社ルノーを含め、欧州系の自動車メーカーは、ディーゼル乗用車に強い。にもかかわらず打ち出されたフランスの内燃機関自動車販売禁止方針は、ディーゼル自動車技術に対するギブアップ宣言であり、フランス自動車業界に対する「転身」要請かもしれない。

わが国では、石原慎太郎・元東京都知事のディーゼル排ガス規制時の経緯からディーゼル車へのイメージが悪いが、欧州では、ディーゼル車はガソリン車よりむしろハイテクなイメージがあり、燃費不正発覚以前には、乗用車の新車登録ベースで、ガソリン車よりディーゼル車の方が、むしろ多かった。同クラスの乗用車で、ディーゼル車の方が20%程度燃費が良いこと、燃料税もガソリンよりディーゼルが安い国が多いことも、欧州のディーゼル車人気の要因であった。

一般に、燃費規制と排ガス規制の間には、エンジンの構造上、トレードオフの関係があるといわれる。公害問題華やかなりし時代には、大気汚染対策としての排ガス規制の強化が進んだが、その後の地球温暖化が問題となってからは、燃費規制が徐々に強化されてきた。そうした中で、燃費規制と大気汚染対策、特に窒素酸化物(NOx)規制を両立させることが難しくなってきたことが、VWの燃費不正の背景にある。その後、燃費不正は、多くのディーゼル車メーカーに広がった。

なお、マクロン大統領は、前のオランド政権の経済・産業・デジタル大臣時代、ルノーに対する政府関与を巡って、ゴーン率いる経営陣と対立したこともあった。だが、ルノーは早い段階からEVの本格的導入に向けて取り組んでおり、わが国でもEVに強いと見られる日産自動車・三菱自動車と資本提携している。

原子力発電による電気

もう一つ、フランスが内燃機関自動車の禁止方針を打ち出し、EV等の電動車に舵を切った背景には、フランスの電力がほとんど二酸化炭素を排出せずに作られていることもある。

電気事業連合会の資料によれば、フランスにおける電源別発電電力の構成比(2014年)は、石炭・石油・天然ガスで5%、原子力で77%、水力・再生可能エネルギーその他で17%だった。化石燃料起源の電力は5%に過ぎず、8割近くが原子力起源の電力で、クリーンな電力であると言える。

これに対し、わが国では、化石燃料86%・原子力0%・再生可能エネルギー14%と、化石燃料起源の電力が圧倒的に多く、現時点では、EVは温暖化対策にならない。自動車の走行段階でCO2排出がなくとも、発電段階でCO2を出すのではトータルでクリーンな自動車とは言えない。

1970年代に石油危機を2度経験し、フランスでは、エネルギー安全保障確保の観点から、石油依存脱却の切り札として、原子力発電の強化を図って来た。チェルノブイリ事故が起きても、また福島第一原発の事故の後でも、原子力への依存・信頼は揺るがなかった。「中東の石油より、自国の科学者を信じる」という言葉もあった。2016年の一次エネルギー供給ベースでも石油が32%に対し原子力は39%を占めた(英エネルギー大手BPが毎年発行している「BP統計」2017年版)。

その取り組みが、地球温暖化対策においても、功を奏していると言える。そもそも、パリ協定自体、そうした確固としたエネルギーの基盤がフランスになければ、まとまらなかったに違いない。わが国が直面している環境保全・エネルギー安全保障・経済成長のいわゆる「3E」のトリレンマから、フランスは解放されているのである。

ドイツの立場

フランスの内燃機関自動車禁止方針発表に、最もショックを受けたのは、ドイツのメルケル首相であったかもしれない。ドイツは、EU内でフランスと並ぶ環境保護国家であり、温暖化対策のリーダーである。しかし、現時点では、フランス同様に、将来の内燃機関自動車禁止方針は打ち出せないであろう。

なぜならば、国内自動車産業の規模がフランスの約3倍であるからだ。2016年の世界の自動車生産量は、中国2812万台、米国1220万台、日本920万台、ドイツ606万台がトップ4位であり、フランスは第10位の208万台である(日本自動車工業会調べ)。

また、発電における石炭と天然ガスへの依存度はそれぞれ46%と13%だ。自然エネルギーが21%と比較的高いものの、火力比率が高いため、電化は温暖化対策にならない。

ドイツは、温暖化対策先進国と言われながら、ロシアからの天然ガス依存上昇に対する安全保障の配慮からか、石炭火力を温存する政策を伝統的に採用してきた。政治的にも、石炭労組の発言力は未だに強い。原子力発電の将来的廃止を打ち出す中、今後は、日本同様、「3E」のトリレンマから抜け出すことは難しくなるものと思われる。

原油価格低迷の意味

国際エネルギー機関(IEA)によれば、2015年の世界の石油需要の約56%は輸送用燃料であり、そのうち約8割が自動車燃料と考えられる。産油国にしてみれば、今回のフランス政府の方針表明は、市場における核心的な需要の喪失を意味する。既に、インド政府も、2030年を目途にガソリン車の販売禁止の方向を打ち出しており、一部の北欧諸国も同様の検討を行っているといわれる。

産油国としては、こうした動きが続くことを警戒していることであろう。

しかし、OPEC産油国は地球温暖化対策に対抗するための措置を、既に2014年秋の段階で講じていると見られる。

2014年11月のOPEC総会におけるシェア確保戦略発動による減産見送り決議である。一般的には、シェールオイルの増産に対抗して、価格戦争を仕掛けたとされている。バレル当たり100ドルから50ドル水準への価格引き下げによって、生産コストの高いシェールオイル減産を目指したことは確かである。

同時に、高価格を維持することによる需要減少と石油代替技術の開発の阻止を目指したものとも考えられる。OPEC産油国にとって、シェア確保戦略とは、現在の石油市場のシェアも重要であるが、将来のエネルギー市場における石油のシェアの維持も視野に入れた構想である。

特にサウジアラビアにとっては、「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」(ヤマニ元石油相)。シェール革命も、技術革新による資源制約の克服であった。サウジは石油資源の枯渇よりも、石油の需要を奪う新技術の登場を一番恐れている。サウジアラムコ(国営石油会社)の新規株式上場(IPO)も、地球温暖化対策による原油資産の座礁資産(Stranded Asset、資金回収できなくなる資産のこと)化に対するリスク分散、一種の「保険」であるとする見方もある。

現時点においてEVは、走行距離の問題やバッテリー寿命などの技術的問題、給電施設などインフラの問題があって、まだまだ普及段階とは言えない。だが、将来技術開発が進めば、そうした問題点は一つずつ解決されてゆくだろう。

EVの普及を先送りさせるには、産油国として打つ手は、財政赤字に耐えつつ、原油価格を低迷させ、技術開発のインセンティブをそぐことぐらいしか考えられない。

おそらく、2016年の年末以降、協調減産でOPECと行動を共にしているロシア等の非加盟主要産油国にしても、同じ認識を持っているであろう。

最大の産油国であり、最大の自動車生産国である、アメリカはどうか。エネルギーの自立(自給化)と同時に、自国の雇用の確保を目指すトランプ政権にとっては、パリ協定や地球温暖化対策など、関係ない。現状の方針を進めてゆくしかない。

そうなると、OPECと非加盟主要産油国は、短期的にはシェールオイルとシェアを争い、中長期的には石油代替技術と需要を争いつつ、現状程度の協調減産を続けていくことになる。

したがって、今後、相当長期にわたって、原油価格は現状程度で低迷を続けるのではないかと考える。

参照元 : 日経ビジネス