医療のかかり方(1)命にかかわる病気は、救急搬送先を選ぼう

2014年4月4日
 
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はじめに

医療のしくみ、社会保障の制度は、なかなか複雑です。多くの人が「常識」と思っていることにも、大きな誤解があったりします。

このコラムでは、患者・家族や制度利用者の目線から、実際に役に立つ知識や考え方、必ずしも広く知られていない大事なポイントを、お伝えしていきます。

時事的な問題や、医療政策・福祉政策・社会政策にかかわるテーマも取り上げます。

どうぞ、よろしくお願いします。

救急車「とにかく早く」だけでいいのか

まずは、生命にかかわることから始めましょう。

家族や身近な人が、急病で倒れたときにどうするか。

もちろん、すぐに119番へ電話をかけて、救急車を呼びますよね。そして「どこでもいいから、とにかく早く病院へ」――そんなふうに考えがちですが、それではまずい場合があります。

救急医療機関は、次の3種類に分けられています。それぞれ役割が違います。

1次救急医療機関 休日・夜間診療所 外来診療で足りる状態
2次救急医療機関 一般の救急病院 入院や手術が必要な状態
3次救急医療機関 救命救急センター 命にかかわる状態

命にかかわる緊急性の高いケース(集中治療や緊急手術が必要な状態)は、具体的にはどんなものでしょうか。

(1)心肺停止
(2)脳卒中(脳梗塞、くも膜下出血、脳出血)
(3)心臓や大血管の病気(心筋梗塞、狭心症、急性心不全、大動脈解離、大動脈瘤(りゅう)破裂、肺塞栓)
(4)消化管の出血(急激な吐血・下血)
(5)激しい腹痛(腹膜炎、消化管に穴、腸閉塞・腸重積、子宮外妊娠など)
(6)呼吸不全
(7)急性腎不全
(8)重大な外傷(頭部外傷、首や背骨の骨折、手足の切断、多発外傷など)
(9)広範囲の熱傷
(10)毒物や薬物による中毒
(11)重症の妊産婦
(12)重症の子ども(脳症、ぜんそく重積発作、てんかん重積発作など)

これらは、3次救急の病院、または「準3次」と呼ばれるレベルの高い救急病院へ運ぶべきです。あるいは脳神経外科、心臓、産科、小児科の専門病院へ運んでもらいましょう。

なかでも患者の数が多いのは、脳と心臓の病気でしょう。

たとえば脳梗塞は、脳の血管が詰まるので、tPAという血栓を溶かす薬を使いますが、この薬が効くタイムリミットは発症から4時間半。どの病院でも治療ができるわけではありません。くも膜下出血、脳出血は緊急手術で助かることがあり、心臓・大血管の病気も手術が必要なことが多いのですが、いずれも、体制の整った病院でないと、まともな治療はできません。

病院に着くのが少々時間的に早くても、中途半端な病院へ運ばれたら、助かるはずの命も助からないかもしれません。後から高度な病院へ転院しても、間に合わないことが多いのです。

救急隊は3人1組で活動します。今では、ほとんどの救急隊に救急救命士の資格を持つ隊員がいて、ある程度の病状の見立てができます。救急救命士がやってよい医療行為も増えています。

また、2009年の消防法改正を受けて、各都道府県や政令市は「傷病者の搬送及び受入れの実施基準」を地域ごとに定め、病状に応じて搬送できる救急医療機関をリストアップしています。

救急隊の意識も、「できるだけ早く患者を病院に届けて、医師にバトンタッチしたい」という発想から、「重症度に応じて適切な医療ができる病院へ搬送する」という考え方に変わってきました。

それでも、すべての救急隊に、そうした意識が確立しているとは限りません。そのため、必ずしも3次や準3次の病院ではなく、なるべく近くの病院、すぐに受け入れてくれる病院へ運ぼうとすることがあるかもしれません。

3次救急医療機関を調べておこう

だから、自宅や職場で誰かが倒れた場合に備えて、どこに3次・準3次の救急医療機関や脳・心臓などの専門病院があるのか、いちど調べておきましょう。3次・準3次の救急医療機関は、都道府県の医療部門のウェブサイトや、各都道府県が定めた地域保健医療計画のうち、救急医療対策の項目を見れば、だいたいのことは載っています。脳・心臓については、ヨミドクターの「病院の実力」のデータが役に立ちます(とくに脳卒中1、狭心症・心筋梗塞)。

急病のとき、本人は話せないことが多いので、家族や周囲の人の対応がカギを握ります。

「3次救急の病院へ運んでもらえませんか?」「専門病院はありませんか?」といった一言が、生死を分けるかもしれません。

地方の場合は、距離が遠くて、病院を選ぶ余地がない場合もあります。ただ、ドクターヘリや消防ヘリによる救急搬送が行われている地域も増えました。命にかかわりそうな場合は、119番した時に「ヘリは使えませんか?」と提案してみるのも、ひとつの方法です。

参照元 : YOMI Dr.


医療のかかり方(2)あぶない救急病院に気をつけろ

2014年4月11日

救急で大事なのは、命にかかわる場合に3次・準3次の救急医療機関か専門病院など、しっかりした治療のできる病院へ運んでもらうことですが、もう一つ、重要な点があります。

「あぶない病院」を避けることです。

あぶない病院は、命にかかわらない2次救急(入院や手術が必要)、つまり、一般の救急病院の中に、紛れ込んでいることがあります。もちろん救急病院の大多数は、懸命に治療にあたっています。ところが少数ながら、<救急車をむやみに受け入れる、やっている医療内容はいいかげん>。そういう病院が存在するのです。主に大都市圏の話です。

取材経験をもとに、実例を挙げましょう。

重い病気をでっち上げ?

神戸市内にあった民間病院(仮にP病院とします)。60歳代の女性が自宅で意識不明になって倒れているのを息子が見つけました。女性は救急車で近くのP病院へ運ばれ、入院しました。2000年のできごとです。

そこで付けられた病名が「急性心筋梗塞、脳梗塞」。その後に「95%以上の確率で腎臓がん。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)にも感染している」と付け加えられました。

家族は回診が少ないことなどに疑問を持ち、転院を希望したのですが、主治医である副院長は「敗血症も併発しているので、動かすと危険だ」と拒否しました。

診療報酬を請求するための便宜上の病名ではなく、実際の診断です。これだけ重い病名が並んだら、命の瀬戸際という感じですよね。

女性は約4か月間、胸の静脈に栄養チューブ、足の付け根から動脈カテーテル、さらに導尿カテーテルをつながれました。この状態ではベッドに寝たきりのまま、動けません。もちろん食事も出なかったのですが、なぜか薬は口から服用していました。

不信感を高めた家族は、福岡市の病院へ強引に転院させました。

そこで検査すると、P病院で診断された病気は、何も見つかりません。女性は翌日から食事を取り、急速に回復しました。寝たきりのせいで萎縮した手足のリハビリを始めると、1か月余りで歩けるようになり、退院したのです。

実は、家族の1人は大学病院に勤める歯科医師でした。「倒れる前、各種の心労から食事をとっていなかった。本当は衰弱しただけだったのではないか」と疑問を投げかけました。

リハビリにあたった福岡市の病院の院長も「診断の根拠となる検査データを求めても、P病院は提供しない。わざと寝たきりを作っているのではないか」と首をかしげました。

そのころのP病院は、外来患者がゼロに近い状態。入院ベッド数は100余りあるのに、実際の入院患者は十数人にすぎず、そのほとんどが救急搬送でした。いつでも救急患者を受け入れてくれるから、救急隊は便利な病院として、どんどん運んでいたのです。

P病院については以前から、保健所や兵庫県、医師会などに「検査が過剰だ」「重症だと言って転院させてくれない」といった苦情が多数寄せられていました。このため地元医師会が、救急告示の更新を「不適当」とする異例の意見を出したのに、県は更新を認めていたのです。

女性のケースの発覚後、P病院は休止しました(のち廃院)。診療報酬の不正の疑いも浮上したのですが、実質経営者だった副院長は行方をくらませました。

ずさんな手術

関西の別の民間病院。こちらは仮にQ病院とします。かつて看護職員数の水増しによる巨額の不正請求が発覚し、保険指定の取り消し処分を受けました。健康保険が使えないので、休院です。しかし保険の取り消し期間は最長5年。そのあと、再び保険指定を受け、診療を再開しました。院長は以前と同じです。

その後のある時、交通事故に遭った中年の男性がQ病院へ救急搬送されました。肩と脚の骨が折れており、院長による手術を受けました。手術した脚が痛むのに、ヘルパーが無理に車いすに乗せようとするなど、扱いが荒っぽいので、家族は疑問を抱きました。

すると、しばらくして医療スタッフの1人が「ここにおったら、あかん」と家族にささやき、ひそかに手助けして、別の病院へ転院させたのです。転院先の整形外科医は「何というデタラメな骨のつなぎ方をしてるんや!」と驚きました。

Q病院は今も、けがや病気の患者の救急搬送をたくさん受け入れています。

本当に適切な診療が行われていればよいのですが……。

患者確保ルートとしての救急

多数の救急搬送を受け入れながら、まっとうな水準の診療をしているとは思えない救急病院を、私はほかにも、いくつか知っています。

外来や、他の医療機関からの紹介では入院患者が集まらず、救急搬送を患者確保の重要ルートにしている病院があるのです。救急入院の診療点数は、一般の入院に比べて高く設定されています。そして救急搬送される患者の多くは、病院を選べない(選ばない)からです。

では、自分の地元にあぶない救急病院はあるのか、気になる人は多いでしょう。ただ、その情報を得るのは、簡単ではありません。診療の「質」は、数字などの指標で線引きしにくいからです。医療行政もそこには踏み込みません。また、結果がうまくいかなかったからといって、いいかげんな病院とは限らないので、患者の口コミも必ずしもアテになりません。

一般的に言うと、<外来患者が妙に少ない病院><規模が小さいのに、救急車がやたらと来る病院>は、要注意です。

具体的に参考になるのは、その地域の病院や診療所での評判でしょう。信頼できる医師や看護師に、非公式に尋ねてみてください。

「あそこはイヤ」と患者や家族が拒否すれば、救急隊がその病院へ運ぶことはないはずです。


原昌平(はら・しょうへい)
 
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読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保 障を中心に取材。精神保健福祉士。2014年度から大阪府立大学大学院に在籍(社会福祉学専攻)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

参照元 :
YOMI Dr.