AI(人工知能)が人事情報を一元管理する時代に! 勤怠管理、メンタルケア、福利厚生までカバー

2017.01.26
 
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全国の企業、官庁、病院の人事システムに激震が走っている――。いかに新たな人材を発掘し、成果を上げるか? どのセクションに、どの人材を配置するか? どのように効率的に業務を遂行するか?

企業の競争力、官庁の管理力、病院の信用力は、これらの伝統的かつ普遍的な難題を克服できるか否かに大きく依存している。

AIやITを駆使し、人材活用や業務管理の改善を図るHRテック

人事部門が担う人材の発掘・採用・活用の業務エリアに、AI(人工知能)やIT(情報技術)を駆使して人材活用や業務管理の改善を図るシステム、それが、HR(Human Resource)テックだ。

HRテックのフローの一例を示そう――。社員の勤怠・給与管理から、能力評価や社内SNSへのアクセス頻度、メールや文書作成ソフトの活用状況までを一元管理する→収集したデータをAIが学習・推論・分析する→社員に最適な仕事や部署を提案する→メンタルヘルスの必要度を計測するという流れになる。近い将来、HRテックが人事システムを一変させるかもしれない。

少子高齢化によって日本の就業者人口は、6376万人(2015年)から5819万人(2025年)へ557万人も減少する予測がある。企業は、優秀な人材確保が急務になるが、HRテックのアシストが強力な追風になるだろう。

HRテックの導入事例は?

HRテックの導入事例は多い。

たとえば、人材紹介サービスを手がけるビズリーチ社は、昨秋に独自の勤怠管理システムを開発しており、今春に新たな評価ツールを開発・導入する計画を進めている。

ビズリーチ社のHRテックは、AIが蓄積したビックデータを解析し、深層学習(ディープラーニング)するので、客観的な人事評価、最適な職場やポジションを提案できる。

その結果、社員は上司から公正な評価が得られ、昇進につながるため、モチベーションや定着率が高まる。しかも、自分の適性と能力を把握できることから、異動・転職などにスムーズに適応する能力(エンプロイアビリティ)の強化にもつながるのだ。

HRテックは、欧米が先駆けて開発してきた。たとえば、求職者の経歴・希望と企業の募集条件を言語解析して、マッチング精度を高めるサービスをはじめ、ビッグデータから予測分析して、採用後のパフォーマンスを予想するサービス、財務と職場環境のデータを集約・分析し、最適な人員計画を立案するサービスなど、AIやITを活用した様々なサービスが展開されている。

AIが勤怠管理から与信管理、メンタルケア、福利厚生までをカバー

HRテックの開発事例をもう1つ紹介しよう。採用支援を手がけるネオキャリアだ。ネオキャリアは、採用や勤怠などの情報をクラウド上で一元管理し、社会保険の申請なども自動化できるjinjer(ジンジャー)を開発している。

加藤賢氏(専務取締役副社長)は、AIによる最新システムを導入したいが、開発資金や導入コストに余裕がなく、勤怠状況を紙で管理するなど、人事のIT化が進んでいない中小企業に注目した。

jinjer(ジンジャー)の対象は、100〜500人程度の社員を抱える企業だ。100人未満の企業は人事専用のシステムを使わなくても、エクセルの表計算ソフトで十分に間に合う。だが、500人を超えると、独自システムを構築するはずだ。エクセル管理では限界があり、独自システムを導入するのは荷が重い中小企業にこそ、潜在ニーズがあると見込めるからだ。

jinjer(ジンジャー)の導入には、1アカウント(従業員に1人当たり)約200円のイニシャル・コストがかかるが、年内にはjinjer(ジンジャー)を中小企業に無料提供するという。

無料化はどのように進めるのだろうか? 加藤氏によると、基本的な仕組みは、米グーグルなどが採用する広告モデルと同じだ。グーグルは検索サービスを無料提供する代わりに、利用者の趣味や趣向に合わせた広告を配信し、広告枠を企業に販売して、収益を得ている。jinjer(ジンジャー)も、社員の人事情報を保険会社などに提供する代わりに、成約マージンを得て収益を確保する仕組みだ(『日経BP』2016年11月4日)。

jinjer(ジンジャー)を導入するメリットは?

jinjer(ジンジャー)を導入するメリットは何か?

たとえば、保険会社なら企業の社員が結婚したとか、出産して子育てしているなどの情報を把握できるので、タイミングよく生命保険や学資保険を提案できるだろう。銀行なら社員の年収や評価を把握できるため、与信管理に活用して低金利の住宅ローンを提案できるかもしれない。

保険会社や銀行は、会社名でリスクを評価して来たが、成果主義が広がり、働き方の多様化も進んだことから、会社名だけの信用調査は難しい。Jinjer(ジンジャー)を使えば、名前や住所など個人を特定できる情報は使わずに、年齢、肩書き、給与などの与信データだけを抽出できるので、保険会社や銀行と連携しやすい。

jinjer(ジンジャー)は、与信管理だけでなく、労務管理や福利厚生も可能だ。昨年1月、ネオキャリアは、インターネットによるヘルスケアサービスを提供するベンチャーFiNCと提携。FiNCは、社員の健康診断の結果やメンタル調査から不調な社員を特定したり、部門ごとのヘルスケアの課題を把握したりするサービスを手がけている。

したがって、jinjer(ジンジャー)が収集する勤怠管理データとヘルスケア・データを融合すれば、社員の心身の健康リスクを見える化したり、数値化できるメリットが生まれる。

人事情報を一元管理し、勤怠管理から与信管理、メンタルケア、福利厚生までをカバーできるJinjer(ジンジャー)のポテンシャリティは大きい。Jinjer(ジンジャー)による人事システムの無料化が定着すれば、HRテックの恩恵を多くの中小企業が享受できるからだ。

だが、リスクもある。人事情報を保険会社や銀行などと共有するので、万が一漏洩すればダメージは甚大だ。プライバシーに不安を感じる社員や、漏洩リスクを嫌う人事部門や経営者も少なくないだろう。HRテックの無料化モデルは、順風満帆に船出するだろうか? 注目しよう。

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

参照元 : healthpress


人間がAI(人工知能)と恋に落ちる? アイドル産業やセックス産業にもAIが進出する?

2016.11.15

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アメリカ映画『her/世界でひとつの彼女』(2013年/スパイク・ジョーンズ監督・脚本)は、妻と離婚協議中のセオドア・トゥオンブリー(ホアキン・フェニックス)が、サマンサ(スカーレット・ヨハンソン)のAI(人工知能)による携帯端末のOSの声に恋するラブストーリ—だ。

近い将来、AIが恋人になる日がやって来るのだろうか?

人間固有の知能・論理・感情を備えたAIを創造するのが難しい理由は?

現在のAIは、AlphaGoや自動運転技術などのように、将棋を指したり、自動車を運転したり、クイズに答えたり、人間と会話したりする、特定の目的を遂行するために作られた特化型人工知能(Narrow AI)だ。人間の知能のほんの一部分に特化した機能しかない。

一方、人間の知能を人工的に再現したAIを汎用人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)と呼ぶ。まるで人間の知能や感情を持っているかのように賢く柔軟に振る舞う人間そっくりのヒューマノイドAIだ。

もちろん、汎用人工知能はまだ実現していない。人間固有の知能・論理・感情を備えたAIを創造するのが難しい理由は、だだ1つ。人間の意識も脳の仕組みも、完全に解明されていないからにすぎない。

数年後には73億人の脳の容量に匹敵する汎用人工知能が出現

東京大学大学院の上田泰己教授は、現時点では意識を解明するための情報が未確定であり、その情報を蓄積して処理できる高度なスパコンがないと説明する。

産業技術総合研究所の一杉裕志主任研究員によると、脳に関する膨大な知見がありながらも、その知見を包括的に統合化できるノウハウもノウフウも不十分なので、脳の仕組みが解明されていない。

だが、神経科学は急速に進歩しているため、大脳皮質のベイジアンネットワークモデルのような脳科学と機械学習を統合した知見もあると話す。ちなみに、ベイジアンネットワークモデルとは、過去の経験から未来に起こる可能性を確率で推測する確率推論モデルだ。

もしも言語や分析的思考に優れたスパコンと、人間の脳を模して開発された感覚やパターン認識に優れた脳型AIチップを組み合わせることができれば、左脳と右脳を同時に働かせる汎用人工知能が実現するはずだ。

そのような人間並みの汎用人工知能が誕生するのいつ頃だろう?

スパコン(PEZY Computing)の開発者で医師の斉藤元章氏は、人間レベルの汎用人工知能が出現する到達点をプレ・シンギュラリティ(前特異点)と呼び、およそ5〜10年で到達すると見る。前特異点では、世界73億人の脳の容量に匹敵する集積回路を搭載した汎用人工知能が出現する見込みがあるという。

AIが恋人になる日は来るか?

汎用人工知能が完成すれば、人間とAIが恋に落ちる日も近いのだろうか?

著名なAI研究学者ベン・ゲーツェル氏によると、AIが人間を凌駕するシンギュラリティ(技術的特異点)に達すれば、人知が及ばない爆発的なブレークスルーが起きる。

その刹那、進化したAIは、人間の能力を遥かに超越した知能を発揮して、宇宙を探索したり、未知の領域を発見したり、人類が知らない高度な叡智を創造するレベルに到達する可能性がある。

そのような卓越した汎用人工知能が人間の恋愛対象になる確率は低い。なぜなら、AIの意識レベルは人間の意識レベルをすでに超越しているからだ。AIが恋愛対象になるとしても、ほんのわずかな期間にとどまるので、「束の間の愛」で終わるかもしれない。

だが、恋愛感情が生まれなくても、人間並みの知能を獲得したAIなら、人間の意識レベルまで降りて来て、人間にやさしい言葉を投げかけるかも。楽観的な見込みは捨てたくない。

AIの未来予測は実に楽しい。あくまでもSF(サイエンス・フィクション)だ。その恩恵やポテンシャリティが莫大なら、予測が外れてもだれも傷つかない。大当たりして、儲ける人はあっても、迷惑を被る人は少ないだろう。AIはそれほど大きなアドバンテージを内包したイノベーションだ。

もしもAIとの恋愛関係が成立するとして、そこにはどんな未来が待ち受けているのか? AIが労働や雇用を奪う。意思を持って暴走し、人類の存亡を脅かす。そんなネガティブな予測は脇に置き、人間とAIの恋愛関係は、どうすれば成り立つかだけを想像しよう。

いろいろな意見があるはずだ。たとえば、AIは思考できても、感情は持てない、AIには性別という概念がない、恋愛感情が芽生えるシチュエーションや恋愛スタイルが掴めないなどだ。そう考えると、人間とAIが恋に落ちる未来がたやすく到来するとは、なかなかイメージできない。

AI恋愛ビジネスが始まる!?

しかし、こんな考え方もできる。疑似恋愛だ。AKB48や楓46などのアイドルグループが展開している握手会も、アイドルとファンが手を触れ合う疑似的な恋愛行為だ。

また、たとえばクリプトン・フューチャー・メディアが発売しているボーカル合成キャラクターの初音ミクにAIを搭載すればどうだろう。魅力的なキャラに変身したら、憧れたり、熱狂するマニアが一気に増殖するだろう。

初音ミクのようなキャラが人間の知能や感性を備えれば、AIによる恋愛ビジネスの起爆剤になるはずだ。アイドルや架空のキャラとの疑似恋愛は、好奇心を熱く刺激し、さりげないリアティを感じさせるからだ。

このようなAIを搭載したキャラとの疑似恋愛は、新たなAI恋愛ビジネに発展する可能性が大いにある。AI恋愛ビジネスは、秋葉系のヲタク、萌えのサブカルチャー、アイドル産業の延長線上にある。

異性と上手に付き合えないシャイな人でも、AIにならストレートに気持ちを打ち明けられるかもしれない。老若男女を問わず、自発的な恋愛に発展する可能性がある。もちろん、精神的にも肉体的にも精巧なヒューマノイドを作るテクノロジーが絶対条件になるだろう。

映画『her』に登場したサマンサ(AIの声)とアンド ロイド型ロボットを融合すれば、精神的にも肉体的にも人間に近いヒューマノイドと愛し合える。さらには、AIが歌舞伎町や五反田界隈のセックス産業に進出しないとも限らない。

あれこれと空想を巡らして来た。AIは恋人になれるのか? AI恋愛ビジネスは起ち上がるのか? AIは、「人間とは何か?」「恋愛とは何か?」を問いかけている。

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

参照元 : healthpress