中国スパイ天国・カナダが腰を上げたTPP“安保戦略”の肝…「仮想敵は中国」に目を覚ませ

2013.12.8 07:00

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意外と真相報じている雑誌

大手メディアには報道上の制約が多い−ということは、よくいわれることです。見えざる外圧とか、記者クラブといった取材上のスクリーニングが働いていたり、さらには現在の幹部層に左派思想の持ち主や反体制派などが依然多数居座っていることから、偏向的報道姿勢が避けられない事情も多いようです。したがって、そうした制約外にあると見なされる大手・中堅の月刊・季刊雑誌とか、ミニコミ紙誌などに意外と多くの真相が報じられていることに気付かされます。

ITメディアの普及につれ、新聞やテレビの「日報」には、拙速から、やや正確性を欠く“粗製濫造的報道”まで散見されるようになってきたと見受けられます。もちろん、ネット情報の世界も拙速の過ちを犯すケースが多いようです。それらに比べ、じっくり時間を掛けて取材・編集し、活字化が可能な雑誌や単行本のほうが巧遅(熟成された巧緻な)情報が得られやすいことは、自明の理です。ITが全ての活字映像メディアを駆逐してしまうのでは、との一時の危惧感が消えつつあるのも、うなずけます。

その一例を挙げますと昨年のできごとになりますが、「勝栄二郎財務次官(当時)が勝海舟の末裔(まつえい)である」との無責任な(ご本人に確認も取らないままの)報道が、新聞・テレビやインターネットでも流れておりました。これが、大手雑誌2社で、事実ではない(両家は全く別の家系であると立証された)ことが分かるに至って、あのウィキペディアもようやく間違いを正したのでした。

2千超える中国スパイ

私が十数年を過ごしたカナダには、宗主国・英国譲りの情報・諜報管理体制が比較的完備されております。そのCSIS(連邦情報安全局)が明かした事実によれば、数年前の時点で、確実に把握しているカナダ国内在住のスパイ活動家が1500人を超え、うち半数以上が中国系だったといいます。最近では、さらに2千数百人を超え、中でも中国関連比率が加速度的に増加しており、情報流出量は米国の5倍以上という深刻な事態だそうです。

軍事機器、IT関連技術の流出が多く、経済的損失は数千億ドルに上るという試算もあります。カナダ空軍機の部品として中国から高く買わされた機密部品が、諜報活動でもたらされたものだったという驚愕(きょうがく)すべき事実まで判明しております。

カナダは、領土の広さに関しては世界第二という大国ですが、人口は3500万と極少で、多文化主義を標榜(ひょうぼう)して比較的「甘い」移民政策を取ってきました。前世紀末までは台湾と返還前後の香港からの移民が多く、今世紀に入ってからは、中国本土やアジアからの流入が急増しているようです。そうした背景から、昨年もカナダ外相の側近政治家をターゲットにした「ハニートラップ疑惑(中国新華社通信の女性記者)」が浮上したケースを重ね合わせて鑑(かんが)みますと、日本の外務省官僚へのハニートラップなど氷山の一角にすぎず、かつての某元首相以降も多くの大物政治家が餌食にされているのではないでしょうか。

TPPの真の目的は

ここで話をTPPに転じます。TPPという用語は、アメリカ公文書に基づいて報道するメディアでは「Trans Pacific Strategic & Economic Partnership」 とフルスペルされているように、文字通り「安全保障戦略」込みの提携であって、国防・外交戦略まで含む極めて“政略的かつ経済的”連携と捉えるべきです。単なる貿易経済的得失だけを論評する多くの日本のメディアに、私は疑問を感じております。

北米のメディアでは昨今、米国のアジア回帰の“本気度”に関する報道が目立つようになっています。そのキーワードが、Pivot(軸足)とRebalancing(TPSEP=バランスの再調整)。限られた国防予算のなかで、軸足を中東からアジアに移し、アラビア海から、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海、太平洋に繋がる資源輸送を担保するため、どの国々と戦略的結びつきを強化するのかを問う動きが鍵なのです。すでに豪州、ニュージーランド、フィリピン、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドに加え、ミャンマーとインドネシアまでが米国と歩調を合わせ始めている一方で、中国と本音で呼吸を合わせているのは北朝鮮、パキスタン、イラン、シリアと限られた国に絞られつつあるようです。

米議会でのやりとりを報じた記事を見ると、「TPSEP」交渉推進の目的に関しては、「メンバー諸国の相互信頼が、安全な貨物運行を含む貿易経済の進展につながり、潜在的リスクを減退させうる」と、言外に中国の強引な軍事的海洋進出に対抗する姿勢が見え見えなのです。日本のマスコミは、単なる中国とベトナムやフィリピンとの領海抗争とする報道に終始していますが、その裏にあるアメリカ連合による包囲網を見逃してはなりません。

中でも、これまで中国型「共産党一党独裁・国家資本主義」を共有してきたベトナムの米陣営への“寝返り”を具現化したTPP参加に対し、中国は強烈な衝撃を受け、中越抗争が日増しに強まっている事態にも注目すべきでしょう。

カナダが重い腰を上げたワケ

話をTPPからカナダに戻します。経済メリット志向から、中国に甘い姿勢できたカナダが、なぜ無関心だったTPPへの参加を決めたのか。その背景には、既述したような、移民に端を発するスパイ活動の深化に対する防御対策を講じる必要が生じたことが、まず一つあるでしょう。さらに、「太平洋国防」に絡めて経済大国の名を借りた軍事大国の様相を増進する中国が、周辺諸国の味方を失いつつ、四面楚歌に陥っている−との現状分析が、カナダの重い腰を動かせたことが垣間見えてきます。

同じ観点から、日本も、対中経済関係維持発展だけにこだわりすぎ、民主党政権時のような軟弱大使を頂く低姿勢外交とか、スパイ天国ぶりが、膨大な国益を損ねている(一説に百兆円レベルの喪失)ことを早く自覚してほしいものです。

平和ボケから目を覚ませ

TPPだけではありません。沖縄基地移転問題も、尖閣騒動も、日中韓FTA交渉も、さらには日米安保、憲法改正問題、あらゆる分野に及んでいる中韓朝露によるスパイ問題やパテント抗争、南京歴史論争、領土問題、韓国の慰安婦問題、地下・海洋資源抗争…。いずれもが単一で独立したテーマではありえません。それら全てが相互に強い関連性を帯びているのです。

これらの問題が重要命題となってきたということをもっと肌感覚で捉え、対中、対米、対露、対南北朝鮮を含めたグローバル・対外戦略を、総合的関連性を重視しながら、われわれ個人個人が、複眼志向と冷静で賢明な視座を持つようにしなければなりません。そのためには、マスコミ報道やITメディアだけに情報依存する悪癖を捨て、雑誌や単行本を取捨選択しながら真実報道を求め、依拠・信頼でき得る論評にめぐりあう努力を継続する必要があると考えます。

諸国家の興亡期に、国際政治の関心の核と成るのは「地政学的磁力」である−と昔から言われてきました。そのマグマは、貿易ルート、戦略的資源の偏在具合、隣接・近隣諸国との陸海国境紛争などの現実下にとぐろを巻いています。それに対する地政学的戦略を、最適・最善に適合させることができる国は栄え、失敗した国は衰退してゆく。それが歴史の常なのです。

平和ボケ日本は、今こそ目を覚ますべきです。そして、すでに熱を帯びつつある米中覇権抗争の行方を冷静に見極め、両者の地政学的長短を見据えた上で、最適なるわが道を早急に選択すべきだと思量致します。(上田和男)

=随時掲載します

上田和男(こうだ・かずお)
昭和14(1939)年、兵庫県淡路島生まれ。37年、慶応大経済学部卒業後、住友金属工業(鋼管部門)に入社。米シラキュース経営大学院(MBA)に留学後、45年に大手電子部品メーカー、TDKに転職。米国支社総支配人としてカセット世界一達成に貢献し、57年、同社の米ウォールストリート上場を支援した。その後、ジョンソン常務などを経て、平成8年(1996)カナダへ亘り、住宅製造販売会社の社長を勤め、25年7月に引退、帰国。現在、コンサルティング会社、EKKの特別顧問。

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