仮想通貨バブル、破裂させたのは銀行か?

2018/2/8(木) 12:00配信

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仮想通貨の価格が暴落している。ビットコイン価格は2月5日までの7日間で38.10%下げ、イーサリアムとリップルも、同じ期間にそれぞれ43.23%、48.14%値下がりした。価値が急落するきっかけを作ったのは誰なのか、それを明らかにするのは難しい。

仮想通貨市場のバブルはすでに、破裂直前にまで膨れ上がっていたと考えることができる。さらに、バブル崩壊の規模を拡大し、打撃をより大きくすることに大手銀行が力を貸したと見ることもできる。

ウォール街と大手銀行が、仮想通貨にとっての追い風になっていた時期もあった。昨年第4四半期、米国の金融業界はビットコインを投資対象として認識し始め、市場参加者をより幅広く募ることを目的に、投資のための手段の確立やメカニズムの構築に乗り出していた。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)によるビットコインの先物取引の開始がその例だ。

さらに、大手銀行は市場を拡大するための流動性も提供した。投資家たちが、仮想通貨をクレジットカードで購入することを認めたのだ。だが、仮想通貨のバブルをますます大きく膨れ上がらせたのは、このことだった。

ビットコインを購入していた人のうち、クレジットカードを使っていた人の割合はどのくらいだろうか──?学生ローンの提供やクレジットカードの発行、金融商品の販売を手掛ける米LendEDU(レンドイーディーユー)の調査によると、答えは18.15%だ。さらに、そのうち22.13%は、クレジットカード利用分の支払いをしていなかった。

仮想通貨市場が最も流動性を必要とするようになった今、銀行は同市場への流動性の提供を制限している。恐らくこうした銀行側の対応が、価格の暴落につながったと言える。ただ、公平を期すために言えば、銀行の側には当然の気掛かりがあった。仮想通貨の価格が大幅に落ち込んだ後、クレジットカードを使って投資をしていた人たちに、必要な支払い能力が残るのかどうかという懸念だ。

だが、金融機関はそもそも、仮想通貨のようなリスクの高い資産の購入のためにお金を貸すべきではなかった。そして、バブルの状況をさらに加速させるべきではなかったのだ。

(仮想通貨やトークンへの投資は、非常に投機的なものだ。市場にはほぼ規制がない。投資額の全てを失う可能性があることを覚悟しておく必要がある。なお、米ロングアイランド大学ポスト校の経済学教授である筆者は、仮想通貨を保有していない)

参照元 : Forbes JAPAN


仮想通貨の命運は金融庁の規制・処分の「さじ加減」が握っている

2018/2/8(木) 6:00配信

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仮想通貨交換業者(取引所)大手の一つであるコインチェックで、仮想通貨「NEM」が不正流出した。被害総額は580億円である。この問題の本質はどこにあるのか、利便性と改善すべき点、将来性はどうなのか。

浮き彫りになったのは、ネット技術が進む中、安心して取引ができる法整備が追い付かず、規制も緩いまま仮想通貨が“急成長”したことだ。

●コインチェック「返金」できるのか 追跡しても「犯人」特定は困難

仮想通貨といえば、ビットコインが有名だが、実際は、ほぼ同じ仕様で、ビットコインをほぼコピーしただけの仮想通貨は1000以上もある。「NEM」はそのうちの一つだ。

不正流出した「NEM(ネム)」を保有する約26万人全員に対して、コインチェックは返金に応じるとしている。もっとも、時期や手続きは明らかになっていないが、実際、仮想通貨ではなく、現実の現金で返済されるとすれば、すごいことだが、どうなのか。

これまで、この種の事件では返済するとの表明はあったものの、実際には返ってこなかったし、仮想通貨の価格変動を考えると、現金通貨で返金されるなら保有者は実損がないばかりか、そのキャッシュ化もできるわけだからだ。

そのための資金は、コインチェックの自己資金でまかなうというが、どこまでできるのだろうか。ひょっとしたら新たに仮想通貨を発行して、それが原資になる可能性も捨てきれない。

一方で、不正に仮想通貨を得ようとした「犯人」探しはどうなのか。

仮想通貨の特徴だが、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使っているので、理屈上は、資金トレース(仮想通貨の所有者の追跡)が可能だ。

ブロックチェーンをあえて例えれば、すべての人の手形の裏書きをシステム上で行っているようなもので、ブロックチェーン(分散型台帳)を見れば、資金トレースが理屈上はできる。このため、不正流出先のデータ解析も行われている。

しかし、不正を行う者もそのことをわかっていて、正体をつかませない工夫をしているから、決定打にはなりにくい。

そもそも資金トレースができるといってもインターネット空間内での話で、所有者個人を特定することができるわけでない。他の仮想通貨に変えてキャッシュ化できないわけではなく、これが日本の主権の及ばない海外で行われたら、事実上、お手上げ状態だ。

●サーバー攻撃に無防備 緩い規制、法整備追い付かず

なぜ不正流出が行われたかと言えば、ネット上でしばしば見られるサーバー攻撃に対して、コインチェックが防御できなったことが問題の本質だ。

「NEM」は中華系アプリの利用もできるので、サーバー攻撃に対してどうなのかとうわされていたものだ。北朝鮮が絡んでいるという報道もある。

もちろん、通常は、サーバー攻撃には何重かの防備体制をとっている。「暗号鍵」を複数にするとか、インターネットと完全に切り離された環境で仮想通貨を管理するとかである。

だが残念ながら、「NEM」はそれらの防備がなされていなかった。

コインチェックの他の仮想通貨では実施されていたことなので、不正流出を防げなかったのは、「NEM」の管理に起因することか、取引の利便性を優先するなどして規制や法整備が手遅れになったかのどちらかである。

いずれかにしても、不備のそしりは免れない。

仮想通貨については、技術が進み過ぎている一方、投資家も一攫千金の夢が膨らみ、かなりリスクと規制がアンバランスになっている。

安心できるような法的整備も当分は追いつかず、「無法地帯」に近い。

これまで業者サイドも規制を嫌い自由にやってきた。法改正でもできる限り緩い規制というのが、業者側の意向であり、金融庁もそれに従ってきた。

それが仮想通貨に進取の人を引きつける魅力でもあったが、今回の問題でわかったのは、決済手段としては当分、手を出さない方が無難だということだ。

どのような技術的な防備対策を施しても、サーバー攻撃は決してなくならない。新しい市場であるので、今後も想定外の出来事がいくらでも起こるだろう。

●仮想通貨の今後は 規制がどうなるかが鍵に

仮想通貨の今後を占うためには、規制がどうなるのかがポイントだ。

コインチェックの仮想通貨流出をめぐって、金融庁は業務改善命令を出した後、コインチェック側からの報告を待たずに立ち入り検査に入った。

金融庁の立ち入りはどのように行われたのか。同じような法令違反がわかったとして、登録事業者であれば問題はないのか、「みなし事業者」はいずれ事業が継続できなくなるのか。このあたりもはっきりしない。

仮想通貨交換業者(取引所)については、2016年5月に法改正が成立し、2017年4月から登録制となっている。

そこでは、マネーロンダリング・テロ資金供与対策規制として、口座開設時における本人確認の義務付けのほか、利用者保護のためのルールの整備として、利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理が要請されている。

ただし、登録制導入時に交換業務を営んでいた業者は、登録申請すれば「みなし業者」として営業を継続できる。これはあくまで経過措置で、コインチェックを含め16社がみなし業者だ。

なお、マスコミでは、交換業者を取引所と称しているが、かなりミスリーディングだ。

というのは、取引所と言う場合、証券取引所のように、買い注文と売り注文が集中して取引所が直接の取引相手にならずに取引が行われるイメージだ。

しかし、仮想通貨の場合、交換業者(取引所)が売り買いの直接の相手方になって取引されている。

この意味で、取引所というのは不適切であり、交換業者といったほうがいい。なお、法律上の名称も、取引所ではなく交換業者である。

登録の要件は形式的であり、事前相談に3〜4ヵ月、実際の登録申請は1〜2ヵ月で終了する。コインチェックが未登録ということは、本人確認義務か分別管理に問題があったのかもしれない。

もっとも、みなし業者であっても、これらは法令に基づく義務なので、問題があるままで許されるはずがない。金融庁の立ち入り金融検査では、これらの点は法令違反として指摘されるかもしれない。

過去の類似法令による行政処分は、多くの場合が金融検査の結果に基づくが、法令違反があれば営業停止になるのが一般的である。

●「みなし業者」だから 厳しい処分の可能性も

筆者は、大蔵官僚時代に金融検査官や証券検査官などの経験があるが、こうした新しい業界の業者では、初めての金融検査では、法令違反が見つかるケースがほとんどだ。

もちろん、軽微なものであれば、営業停止という重い処分ではないが、今回の場合、社会的な影響も大きいので、厳しい処分になるだろう。

ついでに、金融庁の「本音」としては、コインチェックが登録業者でなく、みなし業者であったのは、不幸中の幸いと思っているのではないか。

もし、金融庁への登録後に今回のような不祥事が発生していたら、金融庁のメンツは丸つぶれだったはずだ。

となると金融庁は、コインチェックを登録しなかった理由として、いかにコインチェックの事務管理体制に不備があり、登録に値しなかったかを対外的に示すためにも、厳しい処分をするだろうと予想する根拠になり得る。

コインチェックは失われた仮想通貨の一部を顧客に返済するといているが、金融庁はその財産的な裏付けなども金融検査で明らかにしようとしている。

直近の売買代金から十分な財産的な基盤があるとの意見もあるが、問題は今後、コインチェックがどうなるかだ。

金融庁の金融検査の後、税務署も税務調査に入る可能性もある。

その際、コインチェックの財務状況のみならず、26万人の顧客情報も税務署は入手するだろう。コインチェックが現金で返済すれば、多くの顧客は「確定益」となって、それは雑所得として確定申告対象になる。

税率は一般的な金融商品の分離課税より高いので、税務署にとって26万人の顧客リストは有力な課税資料になる。

こうした状況で金融庁が厳しい処分をすれば、コインチェック自体の存続の危機になるかもしれない。

●金融庁の認識、仮想通貨は 「ネット上の電子データ」

下に示した金融庁が掲げる「仮想通貨交換業者登録一覧」の説明によれば、金融庁は、交換業者(取引所)が登録されていても、そこで扱う仮想通貨の価値を保証・推奨しないと強調している。仮想通貨は、法定通貨でなくインターネット上の電子データにすぎないという。

こうした文言から判断しても、金融庁のさじ加減で今後の仮想通貨の命運が握られていると言ってもいい。

仮想通貨交換業者登録一覧

政府が規制しても、仮想通貨は規制しきれないと、断定する仮想通貨の愛好家もいる。

しかし、仮想通貨自体は電子データに過ぎないので自由に作ることはできても、それを扱う人を規制することはできる。

それが、結局、当面の仮想通貨の将来を決定つける。

金融庁による法整備もあだになっている。

というのは、法整備をしたため、仮想通貨の交換業者は法的なお墨付きを得たと、金融庁の神経を逆なでするような宣伝をしてきたからだ。

交換業者の意向に従い、規制としては一番緩い「登録制」になったが、今回のような大きな資金流出事件になって、社会問題化することになった。

●証券会社並みの取引規制に? “バブル”は一転する可能性

幸いというか、仮想通貨は、支払い手段としてはほとんど社会的に認知されておらず、もっぱら投機の対象になっている。

もっと、支払い手段として社会で利用されていたら、影響も大きい荒療治はできないだろうが、今のところは投機対象なので、金融庁としても思い切ったことをやりやすいだろう。

世界各国では、仮想通貨を法制度で規制するというより、そもそも禁止する国も少なくない。その中で、日本は法制度を整備するという、ある意味で世界のフロントランナーだった。

しかし、緩い規制は見直しもあるかもしれない。

少なくとも、証券会社並みの各種の取引規制が追加されるような気がする。

そうなると、世界の中で、日本だけが仮想通貨で盛り上がってバブルの様相だったのが、一変する可能性もある。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)

参照元 : ダイヤモンド・オンライン