JASRAC、映画音楽の上映使用料を引き上げへ 劇場側は「死活問題」と反発

2017/11/8(水) 17:30配信

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日本音楽著作権協会(JASRAC)は11月8日、映画音楽の上映使用料を大幅に引き上げる方針を明らかにした。現在1本あたり18万円の定額制としている外国映画について、興行収入の1〜2%を映画館から徴収する形に改め、将来的には邦画も同様の契約に変更することを目指す。名画座などでのリバイバル上映からも新たに徴収する意向で、劇場側は「つぶれる映画館が出かねない。死活問題だ」と反発している。【BuzzFeed Japan / 神庭亮介】

著作権法は上映権について「著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する」(22条の2)と定めており、「上映」には「映画の著作物において固定されている音を再生することを含む」(2条17項)。

JASRACはこうした条文を根拠に映画音楽の使用料について規定を定めており、映画館の全国組織である「全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)」との間で契約を結んでいる。

一律18万円から興行収入の1〜2%へ
現在の契約では、外国映画 は映画1作品あたり18万円の定額制。1964年に規定を制定した当初は4〜5万円ほどだったが、1985年までに18万円に引き上げられた。

JASRACは、映画がヒットしても一定額しか徴収できない現在の仕組みを問題視。興行収入の1〜2%を徴収する仕組みに改めようと、全興連との間で協議を進めている。

JASRACによると、2014年の映画上映使用料は、日本の1億6657万円に対して、英国が14億3496万円(興行収入の1%)、フランスが22億7307万円(同2%)、イタリアが17億848万円(同2.1%)、ドイツが12億7332万円(同1.25%)。

「日本の使用料は極端に低い」
JASRACの大橋健三常務理事はこう語る。

「日本の映画上映使用料は映画興行収入に比べて極端に低い。とりわけ外国映画の使用料が、世界との比較で極めて低廉だ」

「来年度には、映画上映使用料について興行収入をベースとした規定に改めて、まずは外国映画における日本と海外との使用料の著しい差異の解消に努めたい」

また、現在は配給業者が使用料を支払っているが、ヨーロッパ諸国と同様、劇場から直接徴収する形に改めたいという。

欧米団体から強く要請
背景には、欧米諸国からの強い要請があった。

JASRAC特別顧問で作曲家の都倉俊一氏は「日本の映画音楽の上映権は実にお粗末な金額で、『アナと雪の女王』も定額で十数万円。世界からバッシングを受けている」と発言。

大橋常務理事も「もう10年以上前から海外の団体、特に欧州・アメリカの団体からは強く言われている。我々も待ったなしだというふうに思っている」と明かす。

日本映画や名画座も…
影響は外国映画だけにとどまらない。

日本映画の場合、使用料は1曲あたり、映画録音使用料×5%×同時上映最大スクリーンという形で算定しており、製作者が録音使用料とあわせて支払うケースが多い。

江見浩一複製部長は「日本の映画については、最終的には興行収入にリンクする形での規定が望ましい」と指摘。将来的には、日本映画についても規定を改めたい考えを示した。

これまで名画座などでのリバイバル上映に際して、JASRACが追加で使用料を徴収することはなかった。しかし、今後は事情が一変しそうだ。

「そういう点の改善を団体さんに申し入れている」「リバイバルで数年後にかかります、というところで新たに使用料をお支払いいただくことになれば、その分は新たな使用料の発生ということになる」(江見複製部長)

日本映画製作者連盟のデータによれば、2016年の国内の映画興行収入は2355億円。内訳は邦画が1486億円、洋画が869億円を占める。

単純計算ではあるが、興収全体の1%なら23.5億円、2%なら47.1億円。外国映画に限っても、1%で8.6億円、2%で17.3億円もの金額になる。

「聖域に手を突っ込んできた」
映画業界の受け止めは深刻だ。

東北地方のある映画館の支配人は「影響は甚大。もしJASRACの言い分の通り1〜2%となれば、つぶれる映画館が出てきてもおかしくない。死活問題だ」と危機感をあらわにする。

JASRACは6月に音楽教室からの著作権料の徴収を発表したばかり。教室側は反発し、訴訟に発展している。

「CDやDVDの売り上げが落ちて焦っているのだろうか。ついに“聖域”に手を突っ込んできた印象だ。大手のシネコンも黙ってはいないのではないか」(前出の支配人)

JASRACとしても、いきなり1〜2%に切り替えるのではなく、段階的に引き上げていくことを検討しているという。

江見複製部長は「単館の映画館が厳しいということは、我々もよく承知をしております。『著作権料の負担で閉めなきゃいけなくなりました』ということは、我々も権利者もまったく望んでいないことです」と話している。

坂本龍一さん「正当な対価の支払い重要」
8日に東京都内で記者会見した、いではくJASRAC会長は次のように発言した。

「何もないところからあるものを生み出すことは、一般の人が考えるよりもはるかに大きなエネルギーが必要。報酬がなければ生活できず、生活できなければクリエイターという職業を選ぶ人はいなくなる」

「映画と音楽は密接に結びついている。映画がロングランしているということは、音楽も繰り返し歓迎されているはず。ところが、日本では音楽に対する評価が欧米に比べて著しく低い」

会見では、「戦場のメリークリスマス」「レヴェナント:蘇えりし者」などの映画音楽を手がけた坂本龍一さんや、「レッドクリフ」に楽曲提供した岩代太郎さんら国内外の音楽家のメッセージも紹介された。

坂本龍一さんのコメントは以下の通り。

音楽業界全体の売上げ縮小が続く中、音楽家は音楽を作るだけでは生活することが難しくなっています。インターネットを介した音楽の頒布はすばらしいことですが、音楽自体の値段が限りなくゼロに近づいているのは残念な事実です。

しかし、映像と一体となる音楽のアウトレットは、形を変えながらますます需要が増しています。そんな時、新作・既存に関わらず、使用される音楽とその著作者に対しての正当な対価が支払われることが重要なのは言うまでもありません。

映画興行収入において世界の高位である日本が、先進国ならびにアジアの中でリーダーシップを発揮し、クリエイターの経済的基盤を守るために尽くしてくださることを願って止みません。

参照元 : BAZZFEED JAPAN