米ビール業界を襲うマリファナ「快進撃」

2017年3月24日(金)19時00分

2017-05-09_121747

<娯楽使用のマリファナが合法化されたアメリカの各州で、マリファナの人気に押されてビールの消費が落ち込んでいることがわかった>

アメリカで3月後半と言えば、スプリング・ブレイク(春休み)。全米の大学で、学生たちがパーティで大いに盛り上がる季節だ。

この時期になると決まってアメリカでは、浮かれた学生のニュースが流れる。3月21日、フロリダ州でパーティーに向かう途中だった19歳の学生が、ピックアップトラックの荷台にビール7ケースとマリファナ(大麻)を大量に積んで猛スピードで走行し、さらに24歳と偽るために身分証を偽造していたことも判明して逮捕され、メディアで大きく取り上げられた。

いかにもアメリカらしい「おバカ」なニュースだが、アメリカの若者の間では、ビールやマリファナは盛大に楽しむのに欠かせない必須アイテムになっている。だがそんなアメリカで今、ビールが近い将来、存在感を失うかもしれないことが話題になっている。

アメリカのマリファナ研究団体「カナビズ消費者グループ(C2G)」が最近公表した調査結果によれば、現在、アメリカ人の4人に1人が、ビールよりもマリファナに金を使うようになっていることがわかった。

マリファナ派の中には、まだマリファナが合法化されていない州の住民も含まれ、彼らの多くは娯楽用のマリファナが地元で合法になれば、ビールよりもマリファナを選択すると答えている。

【参考記事】キリンのビールが売れなくなった本当の理由

アメリカでは最近、マリファナの娯楽使用を合法化する動きが進み、現在8つ州がすでに合法化している。そんな背景もあってマリファナ吸引者はどんどん増加中で、2016年には2400万人以上のアメリカ人がマリファナを使用している。

しかもマリファナは、合法化が進む中で若者たちの間にも広がりを見せている。最近の若者は、酒を飲んで騒ぐよりもマリファナでキメるのを好む傾向がある。

言うまでもなく、この傾向は米ビール業界にとっては深刻な打撃になりそうだ。全米のビールの売り上げは現在、年間1000億ドルに達する。だがマリファナが全米で合法化されれば、ビール業界は全売上の7%ほどを失うと指摘されている。これは20億ドル規模の損失を意味する。

他の州に先駆けて娯楽使用のマリファナを合法化したコロラド州やオレゴン州、ワシントン州では、すでにビールメーカーの業績が軒並み悪化しているという報告がある。

その逆に、マリファナによる経済効果は大きい。例えば2014年に大麻を合法化したコロラド州では、大麻の売り上げが9億9600万ドルに達し、1万8000人以上の雇用を創出している。マリファナを吸いに行く「大麻ツーリズム」なるものも誕生している。

マリファナの合法化が、コロラドでは約24億ドル規模の経済効果をもたらしているという。そんな状況を見た他の州が、合法化を考慮しないはずがない。ちなみにマリファナ市場は今後、500億ドル規模にまで成長すると見込まれている。

日本ではマリファナは違法なので絶対に手を出してはならないが、アメリカでは合法化がどんどん広がっているので、その手軽さから吸引者が増え続けるのは必然の成り行きなのかもしれない。

結果として今後、マリファナの勢いに押されて消費者のビール離れが進む可能性があるということだ。ちまたでは、マリファナ成分入りのビールといった、いかにも苦し紛れのアイデア商品も出回っているが、そんなものではマリファナ市場の拡大は止められそうにない。

【参考記事】「スイッチ」で任天堂はよみがえるか

ただビール業界にとっては朗報もある。ドナルド・トランプ大統領の存在だ。

実は、米連邦法では大麻は違法だ。それにもかかわらず、各州が独自の州法で合法化しているというのが実情だ。米司法省によれば、各州が未成年者の手に渡らないよう適切に規制などをしていれば、国が州の方針に介入することはないという。

ただトランプはマリファナを違法な薬物であると否定的に見ていて、すでに娯楽使用を合法化している8つの州を取り締まる可能性すらあると言われている。少なくとも、トランプ(と、マリファナ嫌いで知られるジェフ・セッションズ司法長官)がホワイトハウスにいる間は、連邦法などでマリファナの規制が大幅に緩和されることはなさそうだ。

いずれにしても、アメリカでマリファナを支持する人は多く、各種調査結果などを見ても今後さらに需要が高まっていくことになるだろう。

アメリカのビール業界は戦々恐々としている。

参照元 : newsweekjapan


マリファナ合法化はビールの売上に影響するか

LIFESTYLE2017.02.12

2017-05-09_122831

Text By Nick Rose

数年前から米国の数州では、嗜好品としてのマリファナを合法化しているが、これに対しビール業界は、売上に影響が出るのでは、と懸念していた。当然であろう。

アルコールのように攻撃的にならないし、二日酔もない。なおかつリラックスできるドラッグが合法的になったら、ビールを買う理由はどこにある? マリファナショップで15ドル支払うだけでいいのだ。

人々は、ストレスを抱えてあくせく働く毎日を忘れたい。安価で楽しいひとときを過ごしたい。マリファナはそれをより低リスクで提供してくれるかもしれない。飲酒運転の心配なし。二日酔いの心配なし。簡単に予想できるだろう。マリファナ摂取量が増えれば、ビール消費量は減るんじゃないか?

不正解。マリファナの合法化に絡み、マーケットの動きを注視している投資会社のひとつ、〈バーンスタイン(Bernstein)〉が、「合法マリファナは、ビールの売上に大きく影響しない」と示唆するレポートを公表した。むしろ「ビール業界をバックアップしている可能性がある」と。

〈週末における消費者の楽しみ:ビールとマリファナの関係を再考〉と題されたこのレポートによると、マリファナが合法化された当初こそビールの売上は減少したかのようにみえたが、依然としてビールとマリファナという古典的な組み合わせは相性の良いペアである、との結果が出た。

「(マリファナが解禁された州における)マリファナ合法化前3年間のひとりあたりのビール消費量は、全国平均よりも早い段階で1%減少していた。しかし、合法化後の消費動向は、全国平均とほとんど変わらない」

これは何を意味しているのか? バーンスタイン・レポートは、広範なマーケット動向とデータを調査した10人の分析家によって作成されているが、それによると、原則的にビールのセールスは合法マリファナの消費と呼応して成長している、と記されている。

「マリファナの合法化が、ビールの消費動向にも良い影響を与えていると私たちの分析から伺えるでしょう」。レポートを作成した分析家はさらに続ける。「マリファナとビールとは、置き換えるよりも、共に引き立て合う場合が多い」。

さらに同レポートは、この状況で最も儲かるのはクラフトビールの醸造所だ、と分析している。ダブルIPAのうんちくを語るビールおたくは、マリファナの種類についても、同様にそのおたくぶりを発揮すると予想されるからだ。

「多くの業界ウォッチャーも、クラフトビール文化とマリファナ文化の類似点を指摘し、合法マリファナはクラフトビールの売上増大を助長する、と考えています。クラフトビールのシェア率が高い州は自由主義の度合いが高く、医療用、嗜好用マリファナが合法である場合が多い」。同レポートでは、コロラド、ワシントン、オレゴンなどの数州に言及している。

さらにバーンスタイン・レポートは、ストーナー(Stoner:マリファナ常習者)のステレオタイプについて触れながら、外食産業にも目を向け、こう締めている。「ビール消費量への影響について最終結論はまだ出されていないが、そのほか連鎖して恩恵を受けるのは、タコスやブリトーの〈チポトレ〉、ドリトス、チートスの〈フリトレー〉、さらに〈ドミノ・ピザ〉、〈ピザ・ハット〉、〈タコ・ベル〉などであろう」。そう、ストーナーのお気に入りはジャンクフードだ。

これがバーンスタインによる経済レポートのハッピーエンド。ごもっとも。

参照元 : vice


米国、大麻の使用が急拡大…連邦法では禁止、巨額税収の魅力、揺れるトランプ政権

2017.04.27

2017-05-10_003907

2016年のアメリカ大統領選挙では、世界の関心はドナルド・トランプ氏に向けられた。その大統領選挙と同じ日、米国の9州で大麻(マリファナ)使用の合法化に関する重要な住民投票が行われている。

メーン州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ネヴァダ州、アリゾナ州では、21歳以上の人が嗜好品として少量の大麻を所持・使用することの是非が問われた。アリゾナ州は反対多数だったが、それ以外の4つの州では賛成多数となった。

アーカンソー州、フロリダ州、モンタナ州、ノースダコタ州では、医療目的に限定した大麻使用の是非が問われ、4州すべてで賛成多数となった。この結果、すでに大麻を合法化していた州を合わせると全米で半数以上の州と首都ワシントンD.C.で、医療用もしくは娯楽用(もしくは両方)の大麻が合法化されることとなった。

オバマ前政権下では大麻合法化を事実上黙認

現在、連邦政府は大麻をヘロインやコカインと同類のドラッグに分類しており、連邦法では大麻は、医療用・娯楽用とも所持や販売が禁止されている。

大麻は、てんかん、アルツハイマー、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、関節炎、慢性通等に医療的効能があると考えられている。しかし、連邦レベルでは違法なので、大麻を使っての臨床実験は困難で、長期的医療効果に関する研究成果は少ない。医師は、医療用大麻の推薦書を発行することはできても、処方箋を出すことや患者への投与は禁じられている。

バラク・オバマ前政権下では、大麻をアルコールと同様に扱うべきだと考え、司法省は州による大麻合法化を事実上黙認していた。オバマ前大統領は、医療大麻合法州が過半数を超えれば、連邦法の修正も検討するという姿勢だった。

アルコールやタバコよりも大麻のほうが危険度が低いという認

大麻の長期使用者で、依存症状を示すのは約10%。それに対して、アルコールは15%、コカインは17%、タバコは32%と、大麻の依存率は低い。大麻の長期使用と精神病に明確な因果関係はなく、過剰摂取しても致命的というわけでもないという。

2016年10月にギャラップ社が行った世論調査では、大麻合法化に賛成する成人は60%にのぼり、過去最高を記録。アメリカでは、アルコールやタバコよりも大麻のほうが危険度が低いと認識されている。

トランプ大統領は大麻反対派を司法長官に任命

アメリカの大麻産業は、2021年には210億ドル規模にまで拡大し、2020年までに合法大麻市場で25万件の雇用が創出と予想されている。合法化した各州は、新たな税収源の恩恵を受ける。カリフォルニアでは、2018年の大麻関連税収が7億7700万ドルになると予測されている。

経済最優先のトランプ政権にとって、急成長の大麻ビジネスは否定しがたい魅力がある。トランプ大統領自身も2015年の政治集会で、医療大麻の解禁や大麻の合法化を各州が決定することについて、肯定的な姿勢を見せていた。ちなみに、現日本首相夫人の安倍昭恵さんも、日本での大麻解禁に熱心だといわれている。

ところがトランプ大統領は、大麻使用に対して強硬な反対派として有名なジェフ・セッションズ氏を司法長官に任命した。セッションズ司法長官は、娯楽用大麻の使用を合法化している州で、連邦の大麻法を行使し始めることを示唆し、2017年3月には大麻に関して適切に法律を適用するとラジオで語った。

司法省はみせしめとして、大麻使用を合法化している州の企業を数社、取り締まるのではないかといわれている。そうすることで、ほかの大麻販売企業に萎縮効果を与えられると考えている可能性があるためだ。しかし、連邦政府は人員不足で、大規模な直接取締ができないというのが実状だ。連邦法があっても、それを実施するマンパワーが欠落しているのである。

大麻をめぐる法律が矛盾した形で共存している状況

アメリカは自由の国であり民主主義の国なので、多数が大麻の合法化を望むのであれば、その方向に進むことを筆者は否定するつもりはない。

しかし、自由と民主主義を守るためには、法治国家を維持することが前提となる。『日本大百科全書』(ニッポニカ)によると、法治国家とは「政治は法律に基づいて行われるべしという法治主義によって運営される国家」と定義づけられている。

現在は、大麻を合法化した州法と、大麻を禁止する連邦法が、矛盾したかたちで共存している状況だ。悪法も法なり−−。大麻の所持や販売を禁止した連邦法があるのであれば、当然それを遵守しなければならない。

きっちりと連邦法を遵守している人に対して公平であるためには、法を破った人間を取り締まらなければならない。そうでなければ、法を破った人が得をし、法を遵守する正直者が損をすることとなり、法治国家は崩壊してしまう。法治主義の精神に則り、自由と民主主義を守るために、決められた手続きに従って連邦法を変えることもできる。

(文=杉田米行/大阪大学大学院言語文化研究科教授)

参照元 : ビジネスジャーナル