ネット社会でますます拡散する“陰謀論”とどう向き合うべきか?

2014年11月11日 21時0分

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ネット社会の流れに乗って、ますます広がる陰謀論。私たちはバカバカしい作り話と笑っているだけでいいのか? 何が真実なのか見えにくい世の中で、怪しげだけどちょっと気になる陰謀論との向き合い方を、陰謀論研究の第一人者である田中聡氏に聞いてみた。

―このところ、陰謀論が流行しているようですね?

田中 東日本大震災の直後に人工地震説が広まってからというもの、事あるごとに陰謀論が登場するようになっています。

最近ではデング熱騒動や御嶽山(おんたけさん)の噴火にまで陰謀の噂がありました。アメリカではずっと前から流行していて、ケネディ大統領暗殺の真相、アポロ宇宙船が月面に着陸していなかった、9・11同時多発テロは自作自演だったなどの説が日本でもよく知られています。

―陰謀論に対しては、カルトや人種差別に通じる危険な考え方だという批判もあるようですが?

田中 もともと陰謀論とは、ある出来事について、公式の発表や一般に信じられている説明を否定して、隠された別の目的、つまり陰謀があるとする主張です。確かに陰謀論を信じるカルトは多いだろうし、ユダヤ人が世界転覆を計画しているという陰謀論がナチスのユダヤ人迫害に利用されたように、排外主義につながる危険性もあります。

しかし、例えば9月18日の国際捕鯨委員会総会でニュージーランドが日本の調査捕鯨(ほげい)の先延ばし案を提出したとき、NHKのニュース番組は「ニュージーランドの真の狙いは日本の国際的イメージの悪化」だと伝えました。これは典型的な陰謀論の一例です。一方で、これを見て、むしろNHKを背後から動かしている力を想像した視聴者も多かったでしょう。その疑いもまた陰謀論です。それくらい、ありふれた考え方でもあるのです。

―しかし、一般に陰謀論といえば、バカバカしいデマだとされていますよね?

田中 なんでもかんでもユダヤやフリーメイソンの陰謀だと決めつけるような説が多いせいでしょう。宇宙人が人類の歴史をずっと操ってきたとか、ロズウェル(米ニューメキシコ州)に墜落したUFOに乗っていた宇宙人とアメリカ政府が密約を結んで陰謀しているという説もあります。お話としてはとても面白いけれど、そのお話を前提に今の政治を論じられても、たいていの人は真に受けないですよね。

―では、やっぱりウソと思ったほうがいい?

田中 いえ、頭から否定すべきではないと思います。例えば、「ノーベル平和賞を受けたマララ・ユスフザイさんはイルミナティだ」という陰謀論があります。イルミナティなど存在しないと思う人にはナンセンスな話でしょう。

でも、確かにマララさんは、結果的に欧米の価値観を正義とする政治的な広報の役割を担っている面もあります。マララさんもノーベル賞も情報戦の道具だという見方もできる。イスラム圏で根強いそういう見方が、この説の土台にあります。また逆に、この陰謀論こそイスラム側の情報工作として広められたものだと疑うこともできます。

いずれにせよ、「陰謀論なんかウソだ」と頭から否定することで、こうした別の観点や疑惑を検討もせずに無視することになってはまずいと思うのです。

―陰謀論にも真実が含まれている場合があるかもしれないと?

田中 部分的にせよ、可能性としてはあるわけです。とはいえ、確かな事実はどんなに調べてもわからない場合が多いでしょう。そういうときは結論を決めつけず、わからないことはわからないままに疑惑としておくべきなのだと思います。

●田中聡(たなか・さと

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1962年生まれ、富山県出身。怪しげなもの、奇妙なものを大マジメに論じ、分析することに定評のある文筆家。『怪物科学者の時代』(晶文社)、『妖怪と怨霊の日本史』(集英社新書)など著書多数。近年盛んになった陰謀論の核心に迫る近著『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書)が好評発売中

参照元 : 週プレNEWS


陰謀論とは、本来、ある犯罪や政治的な事柄の背景には隠された計画があるという物の見方を表す中立的な言葉です。陰謀論 = トンデモ論ではない。