仏高速鉄道「TGV」脱線事故はなぜ起きたのか 同時テロの影で発生したもう一つの大惨事

2015年11月17日
 
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2015年11月13日、パリ市内複数個所で同時に発生したテロ事件は、日ごろ多くの人が観光やビジネスで訪れることから、我々日本人にも大きな衝撃を与えた。しかし、このテロ事件の翌日、ドイツ国境に近いフランス東部ストラスブール近郊で、もう一つ別の大事故が発生していた。フランスの高速列車TGVの試運転列車が横転して、多数の死傷者が出る大惨事となっていたのだ。

事故は11月14日15時31分頃、ストラスブール近郊の村、エックヴェルスハイム付近で発生、事故現場は2016年4月に開業予定の高速新線、東ヨーロッパ線2期区間ボドルクール−フェンデンハイム間のうち、もっともストラスブール寄りの在来線合流地点付近で、フェンデンハイムから直線距離で約3km、ストラスブールからは約12kmの場所だ。

最後尾車両が運河に転落

当該区間は、在来線へ合流するために西行きと東行きの線路がちょうど分離し、間隔が開いている箇所で、運河を跨ぐために築堤となっている。西のメッス方面から進んできた線路は、ちょうどこの場所で進路をカーブで南へ向けて在来線へと合流し、ストラスブールへ向かう。事故車両は、カーブ内側の線路から外側へ押し出されるような形で、両線路の間にある空き地と、線路を横切る形で流れる運河の中へ転落した。

多くのニュース記事で配信されている、運河に転落した機関車とその隣の客車は、映像から判断するところ最後尾車両で、上空から撮影された映像では、車両は2本ある線路の中央付近に編成の原形を留めない姿でバラバラに横たわっている姿を見ることができる。

空き地付近の草地は無残にはぎ取られ、そこに無造作に横たわった車体は、2005年に尼崎で起きたJR福知山線脱線事故を思い起こさせる。フランスの高速鉄道史上、試運転・営業中を問わず、もっとも重大な事故だったと報じられている。

事故原因などの詳細については、事故発生直後ということで、まだ警察や鉄道会社から正式な発表はされていないが、警察当局は「テロとの関わりを示す証拠は見つかっていない」と発表している。

事故当時、大きな爆発音が聞こえたという証言や、また車両火災が発生したという情報もあり、その爆発音が事故の発生前に生じた「事故原因」に起因するものなのか、それとも事故が発生したことで生じたものなのか、引き続き調査が行われているが、11月15日にストラスブール副検事のアレクサンドル・シェブリエ氏は、テロの可能性は低いとの見解を示した。

今回の事故は試運転中の列車で、一般乗客はいなかったものの、車内にはフランス鉄道の技術者や乗務員のほか、招待された関係者の家族などが乗車しており、このうち11人が死亡、37名が負傷(12名重体)している。当初、49名が乗車していたという情報があったが、実際のところ正確な乗員数は分からず、現在確認を急いでいる。

最高速度近くでカーブに突っ込んだ

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今回、脱線・転覆した車両は、フランス国内で使用されているもっとも標準的な2階建て車両TGV-Duplex型のうち、Dasyeと呼ばれる改良型である。

これは、2007年以降に製造された新しい車両をベースに、横方向および垂直方向の加速度を監視するセンサーや、信号、架線の状況をチェックする監視モニターなどといった検測装置を搭載した試験専用車両だ。

この日行われていた試験は、営業最高速度時速320kmの認可を得るために、その10%増しの時速352kmで運転するもので、今年9月から同じ車両を使用して、繰り返しテストが続けられていた。このようなテストは特別のことではない。日本でも新路線の開業前走行試験や、新型車の試運転では必ず行われている。現在世界最速となる時速360kmの営業運転を目指すイタリアでは、その10%増しとなる時速400kmの走行試験を開始している。

その後の発表で、事故発生現場は最高速度時速160kmの区間となっており、試運転では同様に10%増しの時速176kmまで引き上げて試運転を行う予定だったが、ほぼ最高速度に近い時速350kmでカーブに差し掛かり、脱線転覆したという説が有力となっている。

前述の通り、事故発生から現在に至るまで、警察当局も鉄道会社側も、この事故がテロを起因とするものであるという証拠は見つかっていないと発表している。また現場上空からの映像で、車両がカーブの外側へ放り出されるように転覆していることからも、スピード超過が事故原因として有力なのは間違いない。

しかし一方で、混乱を隠すために政府が本当の理由を公表していないが、やはりテロが原因ではないのか、と疑う人も少なからずいる。まず、ブレーキが故障したのならいざ知らず、計測機器を多く積み込んでいる試験車両が、この先線路がどのような状態になっているのか、どの程度の速度で走れば良いかが分からないはずがない。それに信号装置を監視するシステムを搭載した試験車両であれば、信号のトラブルというのも考えにくい。そこで他に要因、すなわち何らかの外的な力が加わったことで、脱線に至ったのだ、という指摘だ。
 
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また爆発音と、その後車体が炎上したという話も、テロではないかと疑いの目を向けられる要因となっているが、前述の通り、その爆発音が脱線の先か後で、まったく話が変わってくる。脱線より前に爆発が起こっていたとしたら、テロであろうとなかろうと、それが事故の原因かもしれないと推測できるし、脱線の後であれば、それが原因で生じた音という可能性が高くなる。

また火災の発生も、脱線した車両が架線柱をなぎ倒し、交流25Kvという高圧電流が流れる電線が切れて地面に接触、周辺の土地を含めて炎が上がったということも考えられる。そもそも、確かに写真では運河を跨ぐ鉄橋付近に煙が立ち込め、オレンジ色の炎が上がっているのを見ることができるが、爆発によってできるであろう、線路や車体の破壊は、画像からは確認できず、テロの可能性は低い。

2年前にもスペインで類似の事故

では、主たる原因として考えられている速度超過を起因とする事故だとして、どうしてそこに至ったのか。そこで思い出されるのが、13年7月に発生したスペインの高速列車脱線事故である。で、その時も高速新線から在来線への接続部分で、速度超過した列車がカーブを曲がり切れず横転し、多数の犠牲者を出す事故となった。

日本の新幹線のように、すべての区間を専用線で走るシステムではないヨーロッパの高速鉄道は、停車駅となる各都市付近では、必ず在来線への接続部分があり、そこでは信号システムのみならず電源まで切り替える国も多い。もちろん、切り替えている最中にまったく信号が作動しないシステムというのは、あってはならないことだが、スペインでは実際に事故が起こってしまった。営業運転より上限の高い、高速運転をする試験ということで、信号装置の電源そのものを切っていたことも考えられるが、いずれにしても早期の原因究明が待たれる。

報道でよく耳にする「新幹線の安全神話」などというのは、勝手な妄想に過ぎない。その裏で、日本のJR各社が事故を起こさないよう、常に緊張感をもって日々運行を続けてきたからこそ、いまだ開業以来、鉄道会社側を起因とする死亡事故ゼロを続けていられるのだ。新幹線は信号システムを含め、何重にもフェイルセーフの備えをしており、同じような事故が起きることは考えにくいが、今後原因が解明されれば、新幹線が教訓とすべき点が出てくるかもしれない。

参照元 : 東洋経済

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フランス高速列車「TGV」が脱線、10人死亡32人けが 開業以来最悪 試験車両、速度超過か

2015.11.15 07:41

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フランス北東部ストラスブール近郊で14日、高速列車「TGV」の試験車両1両が脱線し、少なくとも10人が死亡した。フランス公共ラジオが地元当局者の話として伝えた。ロイター通信によると、32人が負傷し、うち12人が重傷という。

フランス公共ラジオによると、1981年の開業以来TGVの関連事故として最悪となった。

速度超過による事故とみられるが、詳しい原因は不明。車両は技術者49人を乗せ、来年春に営業開始予定の新路線で試験走行をしていた。(共同)

参照元 : 産経新聞

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