風俗や水商売がマイナンバーで倒産する日

2015年9月11日 11時47分
 
index_img_01

KNNポール神田です!

2015年10月、マイナンバーお知らせまであと半月になろうとしている。そして、2016年1月、あと3ヶ月半後にはマイナンバーが本当に実施されるという。一体、国民のどれだけがこのマイナンバーのメリットを把握しているのだろうか?IT産業を中心に空前の経済効果は2〜3兆円と推測されるが、そんな大手ベンダーだけの美味しい話をされてもピンとくるわけがない。
 
◯大和証券は政府や地方自治体に加え、マイナンバーの民間活用が法律で認められた場合、関連する市場は最大3兆円程度と推計

◯政府のシステム構築。システム全体の構築に2千億〜3千億円、そのうち自治体のシステム改修に最大1650億円かかるという。運用にも年間数百億円は必要

◯カードの卸価格は1枚当たり400〜500円で、500億円程度の市場

出典:マイナンバー市場、最大3兆円 システムやカードに特需

■すったもんだのマイナンバー
2015年6月5日、マイナンバーは、「社会保障・税番号制度」にあるにもかかわらず、一方的な日本年金機構のずさんなミスやセキュリティミス事件で、マイナンバーと年金とのヒモづけは見直し検討となった。つまりマイナンバーとは単なる「税番号制度」となった。
 
2015年9月8日、マイナンバー利用の財務省案では、2017年4月からの消費税率10%、酒以外の飲食料品の軽減税率8%の場合、上限を年間4000円で2%分が還付される。年間でたった20万円までの飲食料品費しか還元されないのだ。

2014年の家計支出では、世帯の食料品で月額6万272円で年間72万円(平均世帯人数2.49人だと1人当たり28万9156円)、単身世帯でも飲食費は月額3万8539円、年間46万2468円なのでまったく意味がない。

マイナンバーカードの実物を、コンビニからスーパーに至るまで、飲食料品を購入する度に提示する手間と、読み取る手間、読み取る機械の設備と、情報が漏洩したり紛失するリスクを考えると全く無意味な還元策である。今からでも遅くない、マイナンバーそのものを延期にすべきだろう。実施時期だけの見直しだけだから法律を変えずに閣議決定で延期すればよいのだ。

■誰が為のマイナンバーなのか?
内閣府大臣官房政府広報室の世論調査(2015年9月3日発表)によると、マイナンバー制度の認知度調査で「内容まで知っていた」という人は、43.5%でいまだに半数を割っている。 そしてマイナンバーのカードを希望する人はたったの24.3% 希望しない人は25.8%、未定の人が47.3%という惨憺たる結果だ。そして、個人のマイナンバーだけでなく、法人番号も2015年10月から13桁の番号が国税庁から通知されるが、知らない人が76.4%であった。本当にこれで来年の1月から実施できるのか?

■米国での社会保障番号(SSN)被害は5兆円
米国では社会保障番号の不正取得による「成り済まし」犯罪の損害額が年間約500億ドル(約5兆円)に上っているとも言われる。かつてのように、個人にヒモづいた番号を牧歌的に使えるようなネット時代ではないのだ。
 
もちろん、ハッキングされるリスクが多ければ多いだけ直接、資産や年金と紐付かなくても、個人を正式に証明できるだけで、名前、住所だけでもいろんな犯罪に使えてしまう。単純なところでは、ホームレスに住所を与えるだけで、正式なマイナンバーカードが取得でき、それをもとに最低ギリギリの金融は受けられてしまう。

それを組織ぐるみでやればホームレスの弱みにつけこむ悪徳ビジネスが簡単に成立してしまう。すでに、先進国ではマイナンバーのような共通番号は、実はなかったりする。

■マイナンバーの一番の狙いは?
マイナンバーによって行政のサービスが簡素化、効率化できるなどと謳われるが、それであれば、もっと住基カード(住民基本台帳カード)が普及していてもおかしくない。導入時に400億円をかけ、毎年かかるコストは約130億円でありながら、2014年で有効枚数は666万枚しか発行されていない。

5.2%の普及率だ。つまり発行するだけでも1枚あたり6,006円もする原価のカードだ。マイナンバ−カードは約3,000億円かけて何%普及、いや何%浸透するのだろうか?マイナンバーは任意ではなく、住民票にもとづいた強制の国民背番号だからだ。そこまでして、マイナンバーを普及させたいのは、確実な税金確保目的があるからだ。源泉徴収されている一般サラリーマンには、まったく問題はない。

しかし、内緒で副業を持っている人や自営業者や個人事業者、富裕資産がある人にとってはこのマイナンバーで収入と税金の関係が丸ハダカにされてしまうのだ。国税の立場からすると願ったりかなったりだ。すべての事業者に事業者ナンバーが通知され、従業員のマイナンバーが紐付けられる。副業をしている人も事業者ナンバーからマイナンバーを求められ、収入の総額がマイナンバーで紐付けられるのだ。

そのうち企業のウェブサイトには事業者ナンバーが表示されているのがコンプライアンス的には当たり前になるだろう。まるで上場してシンボル証券コードをもらったかのようになるのだ。むしろ事業者ナンバーを開示しない事業者のほうが怪しく思われるかもしれない。

そして、証券会社や保険会社等の金融機関でも利金・配当金・保険金等の税務処理をマイナンバーでおこない、2018(平成30)年からは金融機関にもマイナンバーの名寄せが必要となる。つまり眠れる1600兆円の金融資産とマイナンバーが紐づくのだ。さらに、土地、不動産などの資産とのヒモ付けも時間の問題となる。マイナンバーは国民のありとあらゆる財布の中身を可視化する最大のツールとなる。

■風俗や水商売が、マイナンバーで倒産する日
もっと、近々で起こりうることを想定するならば、夜のバイトをしている副業のおねえさんたちに問題が発生する。昼間は企業でお勤めしながら、週に何度かだけ、夜のバイトをしている人も、夜の事業者から、給与を支払われる際に、おねえさんたちのマイナンバーが必要となる。

おねえさんたちの住民票と現住所が一致しているとも限らないので、すぐに2016(平成28)年1月から実施とはならないだろうが、事業者側もマイナンバーなどを2016年の3月の確定申告時期の期末あたりで確認せざるを得なくなってくるだろう。

水商売で働くキャストさんたちの、マイナンバーで名寄せされると、昼間の収入と夜の収入が合算され、社会保険料や住民税などが変化してくる。当然収入は上がるので、昼間の会社には、収入上昇分の副業がバレてしまう。

当然、総務部あたりから、副業禁止規定の書類と共に面談が求められるという面倒くさいことになるだろう。さらに、事業所ナンバーは一般にも公開されるので、どんな事業で副業しているのかもバレる可能性が高くなる。

そうならないためには、夜の副業からマイナンバーを要求される時期になると、「それだったら、ワタシ、辞めます」というキャストが大挙登場し、風俗や水商売が一気にスタッフ不足ということになりだすことだろう。

それでも生活の質を落とせない人たちは、マイナンバーの申告をしないでもよい店を探しはじめ、怪しいブラックな事業者のもとにだけスタッフが集まり、健全な経営をしていた夜の店がバッタバッタと倒産しはじめるという現象が起きはじめるのだ。「マイナンバー倒産」という事象が起き始める。これは、まだ氷山の一角だろう。

■マイナンバーに第4の機能「政治」を付加させるべきだろう
マイナンバーには、「社会保障」「税」「災害」番号の機能がある。しかし、現段階では「税」番号としての機能しかない番号制度での見込み発車を、試験段階もふまないで全国民に強制的にやろうとしている。少なくとも、国が「安心・安全」と言えば言うほど、社保庁や年金機構のような杜撰な管理体制が露呈してくる。

むしろ、システムが問題なく稼働するかどうかを実証実験をおこなってから、国民に導入をお願いすべきだったであろう。マイナンバーの番号をカードに印刷する理由もセキュリティの観点からは理解できない。

ICをかざして4桁の暗証番号だけでも代用できるはずだ。汎用性のあるICカードリーダーであればそれほどコストも高くもならない。そのカードが本物であることが立証できれば写真と本人で確認ができる。12桁の番号利用が便利になればなるほど、ネットでも使いはじめIDやパスワードにマイナンバーを流用する人たちだって出てくる。

そうならないためにも、日本には、幸いマイナンバーの実証実験をやるべき好都合な人たちがいる。それは、政治家の先生たちだ。いつの時代も、「政治とカネ」の問題や「選挙」で問題が起きる。政治資金団体ナンバーと政治家ナンバーを公開マイナンバーでヒモづけすれば、献金などの情報もすべて把握できる。

政治資金規正法の問題が起きる前に、不明瞭な資金の動きは国民から指摘がはいることだろう。国が安心安全を担保しているマイナンバーであれば、それに付随する任意の4桁のパスコードで、2016年の参議院選挙では、期日前投票を申請した人はマイナンバーで投票できるようにしてみるべきだろう。

すると第4の機能として「政治」という番号も付随させることができる。政党も事業所ナンバー、政治家もマイナンバーを持っていれば、「マイナポータル」を利用して、選挙にかかわらず「指示」「不支持」を表明すれば、デモと同じ効果を生みだすことができるだろう。国民の金融資産を管理するためのマイナンバーであるのであれば、同様に政治の政策に対して国民の意見を反映できるツールにしなければ、不公平に思えて仕方がないのである。

神田敏晶 
oficialphoto

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
神戸市生まれ。ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の編集とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」を運営開始。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部で非常勤講師を兼任後、ソーシャルメディア全般の事業計画立案、コンサルティング、教育、講演、執筆、政治、ライブストリーム、活動などをおこなう。

参照元 : yahooニュース