少年法適用年齢引き下げは是か非か 根強い慎重意見も

2015年7月26日(日)17時30分配信
 
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改正公職選挙法の成立で選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられたことに伴い、自民党内で少年法の適用年齢の引き下げに向けた議論が進められている。凶悪な少年事件が発生するたびに厳罰化の議論がわき上がってきたが、今回は少年法の保護対象そのものを「18歳未満」に変える内容だ。ただ、少年の健全育成などの観点から慎重な意見も根強い。この問題にどう対応すべきか。自民党の鳩山邦夫元法相と日本弁護士連合会の斎藤義房・子どもの権利委員会幹事に聞いた。(力武崇樹、田中一世)

■「応報」の観点を見失うな 元法相・鳩山邦夫氏

−−少年法の適用年齢引き下げをどう考えるか

「引き下げは当然だ。今回は(憲法改正の最終的な意思決定の手続きを定めた)国民投票法の投票権年齢や、公選法の選挙権年齢の引き下げの延長で議論されているが、私はもともと少年法の抜本的な見直しが必要だと思っていた。これまでも、刑事罰の適用年齢引き下げや、故意に被害者を死亡させた場合には原則として家庭裁判所から検察官に送致(逆送)するなどの法改正はあった。今後も保護しすぎている部分は見直していく必要がある」

−−更生の可能性を考慮し、対象年齢引き下げには慎重な意見もある

「日本では戦後、ずっと加害者の権利保護に重きを置いてきた。加害者が少年であれば、成人とは異なる手続きで保護してきた。だが、被害者側からみれば、加害者が何歳かは関係のない話だ。刑事罰の基本は犯罪に対する応報として刑罰を科す『応報刑』だし、被害者の方々もそのことを強く主張しておられる。私はその観点は絶対に見失ってはいけないと思う。少年事件では、『加害者の更生』とか『要保護性』とかという言葉が並ぶが、被害者は『応報刑を科してもらいたい』という気持ちを強く持っているはずだ」

−−報道各社の世論調査でも引き下げを求める意見が反対を上回っている

「少年ではあっても、罪を犯せば成人と同様の罰を受けなければならないというのが国民の普通の感覚ということだろう。これは死刑制度の存廃論議でも同じことがいえる。日本人は命を非常に大切にするので、人の命を奪った者はその死に匹敵する刑罰に処されて当然だという精神文化がある。だから、世論調査では死刑存続派が圧倒的に多い。死刑制度というのは、ある意味では国の文化だ。将来、死刑廃止派が7〜8割に上るようになれば、精神文化の変化としてそれを受け入れてもいいだろう。少年法の議論もそれと同じだ。これは、日本人の精神文化の表れともいえる」

−−少年法の対象年齢を引き下げても、18〜19歳には特別の措置を講じるという考え方もある

「それはしないほうがいい。『18歳未満』に引き下げた場合には、18〜19歳はそれまでの20歳以上と同等の扱いでいいのではないか」

−−少年事件での実名報道のあり方も変えるべきか

「少年が逆送された場合には実名を報道していいと思う。つまり、重大な事件では、それだけの責任を負わなくてはいけないということだ」

−−飲酒、喫煙の解禁年齢の引き下げも議論の俎上にのっている

「民法の成人年齢と併せて引き下げるのも一案だが、私は20歳のまま据え置くのが順当だと思う」

■更生の機会を奪い再犯増加 弁護士・斎藤義房氏

−−引き下げ反対の理由は

「犯罪を起こす少年は、相手に共感する感情や想像力に乏しく、対人関係の築き方がわからない人が多い。非行少年に対しては、きちんと社会生活が送れるよう家庭裁判所で生育環境などを調べ、少年鑑別所で医師ら専門家が検査や支援をする。場合によっては少年院で教育プログラムを組む。更生の余地が大きいうちに適切に処遇することで再犯の芽を摘み、新たな被害者を生むのを防ぐことにつながる。適用年齢を『18歳未満』に引き下げれば18、19歳の立ち直りの機会を奪い、再犯を増やす。社会にとってマイナスだ」

−−18、19歳は未成熟な「少年」か

 「かつては中学を卒業して働き、20代前半で家庭を持つ人が多かった。今は18、19歳では経済的に自立していない人が大半だ。政府の『青少年育成施策大綱』(平成20年)には、0歳から30歳未満までは社会的自立の遅れが見られると書いてある。まして非行少年は家庭で虐待を受け、学校や地域で阻害されるといった厳しい環境で育ち、より未成熟である傾向が強い」

−−相応の刑罰を科すことが犯罪抑止につながるとの意見も根強い

 「刑罰が少年の立ち直りにとってプラスにならないことは、世界の常識になっている。法務省の研究結果では、20歳未満で1犯目の刑事判決を受けた場合、3犯以上の再犯者になる比率が高い。厳罰化の先頭を走る米国でも同様の研究結果がある。一部の州は、いったん保護対象を17歳や16歳に引き下げたものの、再び18歳未満に戻した」

−−自民党内で引き下げの議論が始まっている

「年齢制限は、法律の目的ごとに定めるべきだ。ドイツは民法の成人年齢を18歳に引き下げたが、少年法の適用は21歳未満のままだ。『選挙権を引き下げたから少年法も』と単純に考えるべき話ではない。検察庁は、取り扱う被疑者のうち68・6%(平成24年)を起訴猶予としている。18、19歳も成人同様の扱いをすると、その相当数が起訴猶予となり、家裁での手当てを何ら受けずに社会に戻される。再犯増加を招くのは明白だ」

−−各種世論調査では引き下げ賛成が圧倒的多数だ

「大勢の人が漠然と『日本は少年犯罪に甘い』と思っている。だが、現行の少年法でも16歳以上が故意に人を死亡させた場合、原則として刑事裁判所に送致し、18歳以上であれば死刑の言い渡しもある。また、少年犯罪が増加・凶悪化しているという誤った情報が流されている。昭和30年代半ばに殺人や殺人未遂で検挙された少年は400人台だが、近年は40〜50人台だ。日本は世界的に見ても少年犯罪が少なく、少年法制は高く評価されている。マスコミには実態を正しく報道してもらいたい。私たちも国民の理解を広げる努力をしないといけない」

参照元 : 産経新聞