119人目の犠牲者 福岡市立の中学校で柔道死亡事故 典型的な事例 指導内容の徹底した検証を

2015年5月29日 5時30分

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■学校柔道 119人目の犠牲者
福岡市立の中学校において、柔道部の練習で、1年生の女子生徒が、2年生の女子生徒に大外刈りをかけられ頭部を打ち、死亡した。5月22日に事故が起き、27日に帰らぬ人となった。

1983年度以降、学校柔道で119人目の犠牲者である。

柔道は、主要部活動のなかでも突出して死亡率が高い。それでも、2012〜2014年度の3年間は、全日本柔道連盟の尽力あって死亡ゼロが続いてきた(「柔道事故 死亡ゼロが続いていた」)だけに、今回のケースは私を含め関係者には大きな衝撃を与えた。

■典型的な事故事例―1年生の頭部外傷に要注意
そしてそれ以上に衝撃的だったのは、今回のケースが死亡の「典型的な事例」であったという点だ。全日本柔道連盟が、この数年ずっと注意喚起を続けてきた、まさにその事例が、またもや起きてしまったのである。

これまで私がおこなってきた柔道死亡事故118件の分析【注】からは、その最重要な知見として、(1)事故は中高いずれも1年生(初心者)で多発している、(2)死亡の主たる原因は柔道技による頭部外傷である、という2点が得られた。

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実際に、柔道事故の実態を踏まえて作成された全日本柔道連盟の『柔道の安全指導〔2011年第3版〕』には、その1ページ目において、「特に、若年の初心者が頭部や頸部を負傷し、重大事故になるケースが顕著です」と警告が発せられている。

そしてまさに今回の事故は、(1)柔道がまったく初めての生徒が、(2)投げ技による頭部外傷で亡くなっている。頻発してきた「典型的な事例」が、再び起きてしまったのである。

■5月〜7月、大外刈り
先の全日本柔道連盟『柔道の安全指導〔2011年第3版〕』には、2003年以降の重大事故86件が独自に分析されていて、今回の事故に関連する重要な知見がいくつか示されている。そのうち、2つを手短に紹介しよう。

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一つが、技の種類である。全柔連の分析では「大外刈り」で重大事故が多く起きている。大外刈りは真後ろに倒されるため、後頭部をそのまま打ちつけてしまう。今回のケースも、生徒は大外刈りをかけられて亡くなった。柔道事故に詳しい者は「またか」と感じたことだろう。

もう一つが、時期である。事故は5月から8月の間に集中している。全柔連の安全指導啓発動画では、「4月に入部して受け身の習得が不十分なときに無理な稽古をおこなったことが考えられます」と説明されている。今回は、まさに入部して間もない柔道初体験の生徒が、命を落としている。

■初心者には技能や体力に応じた段階的な指導が重要
報道によると、「市教委は『指導方法に問題はなかった』」(毎日新聞)との認識のようである。これが字義通りだとすれば、あまりに安易な結論であると言わざるを得ない。

すでに見てきたデータからわかるように、柔道初心者の頭部外傷を防止することは、今日の柔道指導者に課せられた重要な責務である。初心者には技能や体力に応じて段階的かつ慎重に指導がおこなわれるべきである。

亡き生徒は、大外刈りをうまく受けられるほどに受け身を習得できていたのか、相手(2年生)との技能や体格の差はどうだったのか、指導者はどこまでこれらの安全に配慮していたのか。活動する生徒をその場で「見ていた」だけでは、何の安全指導にも当たらない。指導の内容が、丁寧に検証される必要がある。

■頭部外傷のくり返しはなかったか
最後にもう一点だけ、「事故の前に、この生徒が頭痛を訴えていたとの情報もある」(朝日新聞)ということに触れておきたい。

もし、これが事実だとすれば、指導者の責任はさらに重くなるだろう。今日のスポーツ科学の世界では、脳振盪(頭痛、めまい、吐き気等の症状)が疑われる状態での競技復帰は、原則許されていない。なぜなら、脳振盪をはじめとする頭部外傷のくり返しは、致命的な事態をもたらすと考えられているからである。

いま福岡市教育委員会がなすべきことは、中立的な立場での一刻も早い情報収集と事実究明である。事実をうやむやにしては、再発防止につながらない。死亡事故をカウントするのは、もうこれで最後にしたい。

【注】
学校管理下で起きた118件の死亡事故を含む、柔道事故問題の全容については、拙著『柔道事故』を参照されたい。

参照元 : 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授