医者自身が病気になったら“治療拒否”したいケース30

2015年5月5日(火)12時45分配信
 
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医者は自分では絶対に避けるような多大な困難をともなう治療を患者に施術することがある。私たちは病気になって焦る前に考えておかなければならないことがあった。

※第一回「なぜ、医者は自分では受けない治療を施すのか」

■医者自身が病気になったら避けたい事例30

※複数医師への取材をもとにプレジデント編集部構成。「」内は、断りがない限り萬田緑平医師の発言。

【1】余命数カ月で尿管ステント
尿管に入れるチューブ。挿入後、チューブが詰まってしまうことがあり、数カ月ごとに入れ替える必要がある。「数カ月単位の延命ならば検討する」。

【2】話の要点がわからない医師
手術失敗など訴訟の俎上にのぼりやすい外科医と違い内科医は、治療・投薬と結果の因果関係が外科ほどはっきりしないので、治療の説明をより明確にすべき。

【3】疲労を蓄積・人工透析
腎臓が機能しなくなったときには必要な治療だが、週に3回、4時間かけて行うので精神的・肉体的疲労が大きい。「1年以上延命できるならば検討する」。

【4】拷問に近い・吸引
口の奥にチューブを入れて唾液や痰を吸引する。患者さんに苦痛を与えて咽せさせたところで痰を吸引する場合もある。「拷問に近い。絶対にやりたくない」。

【5】90歳を超えたら病気を治さない
90歳で検査をすれば何かの病名がつくだろうが、治療のリスク、検査の負担も考慮し、よほどのこと以外は自宅でゆっくりしたほうが元気で長生きできるのではないか。

【6】急性疾患でない胃ろう
お腹に穴を開けてチューブで胃に栄養を入れるが、チューブをぶら下げずに済む。「急性疾患などで意識がはっきりしている状態ならお願いするかも」。

【7】軽い病気で大病院
少々の熱が出たぐらいで、大混雑する大病院にいくのは避けたほうがいい。近くのクリニックで十分だし、そこで何かが見つかればすぐに適切な病院を紹介してくれる。

【8】検査大好き病院
患者負担を考えず、不必要な検査を繰り返す。少なくとも、「第一の検査では、この部分がわからなかったので、次の検査をします」(内科医)といった明確な説明が必要だ。

【9】外科医の手が不器用、すぐキレる
全身麻酔をすると、手術室で何が起きているかはわからない。医者は自分が手術を受けるときは、信頼に足るか(手は不器用ではないか、すぐキレたりしないか)を下調べ。

【10】薬の量が杓子定規
たいして詳しく診察したわけでもないのに、やたらと出す薬が多い内科医がいる。患者の年齢や体質、病歴は千差万別。患者を正視しない思考放棄医師の危険性あり。

【11】治療中でないのに禁酒
治療中の禁酒は常識だが「“身体にいいこと”よりも“心にいいこと”」で、酒好きならば楽しくなる効能のほうが尊い。高齢患者で、酒は高カロリーなので栄養状態は良好だったという例も。

【12】絶対拒否する腎ろう
「延命できてもやりたくない」。背中から腎臓に直接チューブを入れて尿を排出する。風呂にも入りにくく、仰向けにも寝にくい。日常生活に不便を強いられる。

【13】不勉強、硬直思考の医者
在宅医療や緩和ケアなどの発想についていけない医師が少なからず存在する。従来の治療のみが本道で、それ以外の道は、自分の地位が下がると思っている場合も。

【14】延命見込みなしでの人工肛門
意思とは無関係に排出されるので、便を受ける袋を装着する必要がある。がんによる腸閉塞の場合によく使われるが、役に立たない危険性も。「年単位で延命できるなら検討」。

【15】栄養補給を点滴に頼る
点滴は栄養補給ではなく、主に水分補給。病院では点滴に頼りすぎるから、胸水が溜まってしまって胸腔カテーテルなどの治療を行わなくてはいけなくなる。

【16】絶対勘弁のイレウス管
鼻から腸まで入れる太く堅く長いチューブ。「鼻から箸よりも太く長いものを死ぬまで入れられると思うと……。いくら苦しんでいても、これだけは勘弁してほしい」。

【17】タバコは絶対悪か?
“百害あって一利なし”代表格も、「禁酒」と同じ理由で、一服がなによりも楽しみの愛煙家なら。衰弱しても、タバコを爪楊枝に刺してご家族に吸わせてもらった強者もいた。

【18】不要な「安静」の強要
病気治療に安静、も常識だが、寝たきりが続いては気持ちが細ってしまう。孫がいるのなら、できるだけ一緒に過ごす。生命力溢れる幼児たちからパワーをもらうのだ。

【19】幸福感のない食事
制限されるような身体に悪い物を大量に食べられるはずもなく、本人の嗜好に任せて構わない。好きなものを食べたときの幸福感は年齢性別を問わず厳然たるものがある。

【20】規則正しい生活の強制
規則正しさを強要された病院から自宅へ戻ったのなら、もう好きにすればいい。それだけで精神が華やいだ例は多い。食べたいときに食べ、眠いときに眠る。

【21】比較的負担小・胆道ステント
胆管が閉塞したとき、消化管内視鏡を使って胆管に挿入するチューブ。身体への負担は比較的少ないので、「数カ月単位で延命できるならば検討する」。

【22】なかなか退院を認めない
病院医師は「敗北」を認めたがらない。しかし抗がん剤治療は撤退のタイミングこそが最良の延命治療になりうる。頑迷な医師よ、患者本位に意識を軟化させるべきだ。

【23】緊急以外の中心静脈カテーテル
首、肩、足の付け根などから挿入する。挿入時に出血などのトラブルもありうるし、入れっぱなしになるため、感染で使えなくなる危険性も。「使用は緊急時に限りたい」。

【24】治療のテコ入れをしない
処方どおりの投薬をしても症状が改善しないにもかかわらず、治療方針を是正ぜず、同じ種類、量の薬を出し続ける。つまりは怠惰。カルテのみを見ている証拠。

【25】胸の出血リスク・胸腔カテーテル
水を針で抜く場合、数日に1回の割合で穿刺しなければならず、胸の出血や肺に穴が開くリスクがある。「無駄な点滴をしなければ胸水はそこまで溜まらないのではないか」。

【26】避けたい・尿道カテーテル
病院が比較的容易に挿入する。患者さんがおむつを拒否する場合に使われることも。「挿入の煩わしさよりも排尿の苦しさのほうが大きい場合は、使うかもしれない」。

【27】医者が紹介する医者
医者が入院したとき、普段褒めている医者とは別の医者に担当を依頼した、というのはよく聞く話。医者はしがらみが多く、医者の紹介する医者が信用できない場合もある。

【28】医師の「頑張りましょう」
とりあえず治療を継続したい医師が頻発する言葉。頑張って完治するならば結構だが、疲弊した患者に「頑張れ」と言うのは思考放棄。患者の状態を正視していない証拠。

【29】PTCD・胆汁チューブ
皮膚から直接胆管にチューブを入れる。胆汁は1日数百ミリリットル流れ出るので、チューブの先にボトルをぶら下げる。「よほどの長期延命効果があっても辞退します」。

【30】よほど苦しいのなら胃管
鼻から胃まで入れるチューブ。完全拒否の患者さんも多い。「できるならやりたくないが、余命1カ月でよっぽど苦しんでいたらお願いするかもしれない」。

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緩和ケア診療所「いっぽ」医師 萬田緑平
1964年生まれ。群馬大学医学部卒業。群馬大学附属病院第一外科に所属。2008年、緩和ケア診療所・いっぽの医師となる。
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緩和ケア診療所「いっぽ」医師 萬田緑平 構成=須藤靖貴

参照元 : プレジデント