森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 公約違反で済まない原発政策

2014年04月30日 15時00分
 
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政府は4月11日に新たなエネルギー基本計画を閣議決定した。「原発を重要なベースロード電源として位置付け、安全規制基準をクリアした原発は再稼働する。原発依存度は可能な限り低減する」といった基本方針は、資源エネルギー庁が作った原案通りで、目新しいものではない。私が一番驚いたのは、将来のエネルギー構成を一切明らかにしなかったことだ。

エネルギー構成を明らかにしないエネルギー基本計画など何の意味もない。私が資源エネルギー庁の職員にそう言ったところ、それを決めるのは政治の判断だという答えが返ってきた。だから、大まかでも政権として考える将来の姿を数字で表してくると考えていた。それが、完全に裏切られたのだ。事実上、原発推進に政策を切り替えたのだろう。

一昨年の衆院選挙で自民党は、「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」という公約を掲げた。それが昨年の参院選では「安全と判断された原発は、地元自治体の理解が得られるよう最大限努力する」と、再稼働を容認する姿勢に転じた。正直言うと、私はそれでよいと思っていた。

脱原発を図るには大きなコストがかかる。それを賄うために、リスクの小さい原発を再稼働させて、費用を捻出するほうが、廃炉の負担が小さくなると考えていたからだ。しかし、あくまでも明確な脱原発の前提があってのことなのだ。

今回の計画では、原発の新増設も否定しなかった。つまり、原発をどんどん増やしていくことさえ可能にしたのだ。しかも、国策で原発推進をしながら、事故が起きた時の責任は電力会社が取るという仕組みはそのまま続けられる。政府の電力自由化方針の中で、新興の電力会社がどんどん参入してくる。もちろんその中に原発を電源にする会社はない。

一方で、既存の電力会社は国策によって原発が義務づけられる。そして事故が起きたら無限責任が押しつけられる。

さらに恐ろしいことがある。それは今回の計画で核燃料サイクルを堅持するとしたことだ。核燃料サイクルというのは、原発から出た使用済み核燃料を再処理工場で処理して、プルトニウムを取り出し、それを高速増殖炉で利用したり、ウランと混ぜてMOX燃料を作って原発で利用するというものだ。

ところが、高速増殖炉のもんじゅは運転の目処が立っていないし、MOX燃料が使用できる原子炉も限られている。日本はすでに44トンものプルトニウムを保有している。これ以上プルトニウムを増やしてどうする気なのか。

実は日本が保有しているプルトニウムは、核兵器数千発を作ることのできる量だという。まさか、そんなバカげたことをと思われるだろうが、すでにアメリカからさえも、日本の核兵器開発を懸念する声が上がり始めているのだ。

最近の集団的自衛権の議論をみていると、政府がこんなことを言い出しても不思議ではないと思う。「核兵器は最も有効な自衛のための手段だ。自衛権は日本国憲法でも認められた権利だから、政府の判断で核兵器保有は可能である」。日本のプルトニウム保有量は、米仏に続いて、すでに世界第三位。日本はすぐにも、核兵器大国になれるのだ。

参照元 : 週刊実話