建設人材不足、外国人で解消 東京五輪に向け規制緩和、再入国容認へ

2013.12.24 06:04

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【東京2020 国際都市への挑戦】(5)

年明けから始まる東京オリンピックの開催準備で、資材価格高騰とともに最も懸念されるのが建設産業の施工能力不足だ。東日本大震災の被災地でも高台造成工事が進み、来年度からは住宅や公共施設などの建設が本格化する。

「どちらも絶対に遅らせるわけにはいかない」(国土交通省幹部)工事だけに、政府は来年度にも、外国人技能労働者の規制緩和や工事発注方式の見直しなどの緊急対策に乗り出す方針を固めた。果たして施工能力不足を解決できるのか。

「地域の職人が札幌へ、札幌に集まった職人は東北の被災地や東京へと玉突きで動いている。職人を確保できずに公共工事に応札できない地場ゼネコンも出てきている。工事があるのに受注できずに倒産する建設業者が出てくるのではないか」

公共事業への依存度が高い札幌市の設計事務所社長がそう嘆く。冬場になって雪国では除雪の仕事も増えるが、東京に出て戻らない職人も増えるとみている。

「絶対的に足りないのは鉄筋工。そこでの遅れをカバーしようと型枠大工を無理に集めるから、今度は型枠大工が足りなくなる」と、東京都足立区の型枠大工専門工事業者社長は職人不足の構図をそう解説する。人手不足のシワ寄せが、建設生産工程のあらゆる部分に波及しているのだ。

「復興工事と重なる」

「職人不足をカバーするため、ALC(軽量気泡コンクリート)などの工業製品の使用を増やしているが、関東地区の工場は満杯。京都や富山からもトラックで運んでいる」(準大手ゼネコン役員)。そのトラックも「建設労働者の待遇が改善されてきたため、トラック運転手からの転職が増えて、人手不足が進みつつある」(住宅メーカー幹部)という。

建設技能労働者の不足問題はすでに深刻な段階へと進みつつあり、労務単価も大幅に上昇し始めている。それでも「カネさえ出せば、まだ職人は集められるし、何とか工期に間に合わせられる」(ゼネコン幹部)ので、大きな混乱は今のところ起きていない。しかし「問題はこれからだ」(国交省幹部)。

東京オリンピック招致が決まる前から被災地では「もしオリンピック開催が決まったら復興工事がさらに遅れる」と懸念する声があった。津波被害を受けた地域の高台造成工事が今年度末から順次、完成する時期を迎え、まちづくりが本格化するのはこれからだ。ちょうどオリンピックの建設需要が出てくる時期と重なってしまう。

政府は、来年4月の消費税率引き上げによる景気腰折れを防ぐために5.5兆円規模の2013年度補正予算案を決定しており、うち復興関連費用を除く公共事業に約1兆円を投入する考え。加えて、国土強靭化基本法成立で14年度予算でも公共事業費の増加は確実な情勢だ。

来年2月にオリンピック組織委員会が発足すれば、競技場建設などの準備も本格的に始まる。民間建設投資も20年の目標年度に向けて活発化するのは間違いない。

来年1月には安倍政権の成長戦略の目玉である国家戦略特区が指定される予定で、オフィスビル、商業施設、マンションなどの建設が加速するだろう。首都直下地震のリスクに備えた木造住宅密集地域の不燃化も急務となっている。

国内建設需要がこれだけ盛り上がりつつあっても、建設業界は供給能力の増強には慎重な姿勢をみせる。これから若年者や女性を雇用して育成するのにも時間がかかるし、特需が終われば反動減に苦しむことになるからだ。ある大手ゼネコン役員は「優秀な人材を継続的に確保・育成していくためには、需要が安定してくれる方がありがたい」と本音をもらす。

国内業者は反発も

そこで急速に浮上してきたのが外国人労働者の活用。「やはり外国人の建設技能労働者を活用するしかない。官邸も施工能力不足の深刻さを認識したようだ」(国交省幹部)。

建設技能労働者はこれまで在留資格とはなっておらず、研修の名目で労働が認められているだけだった。研修期間も最長3年で、毎年約5000人を受け入れており、約1万5000人が建設現場で働いている。現在は日本での研修を終えた外国人技能労働者の再入国は認められていない。

緊急対策では、即戦力として日本での研修経験のある外国人技能労働者の再入国を認める案が有力だ。また、被災地の復興工事で不足している建設機械のオペレーターを確保するため、日本のゼネコンが行った海外工事で現地での雇用実績のある建設技能労働者を活用する案も検討されている。

公共工事の発注で予定価格が低いために、豊洲新市場の建設工事など入札不調が相次いでいる問題に対処して、入札制度の見直しも進める。「これまでは価格競争によってコスト引き下げを促す仕組みだった。インフレ対応型に変えなければ、不調ばかりが続いて時間の無駄」とし、適正価格での落札を促すよう改善を図る考えだ。

ただ、外国人技能労働者の活用に対して、国内の専門工事業者からは反発の声があがる。「建設費が大幅に上がってきていると言うが、労働者の賃金は法定福利費(社会保険料に相当)分ぐらいしか上がっていないのが実情。いま外国人労働者が入ってくると待遇改善が進まなくなる」(専門工事会社首脳)との懸念があるからだ。

東京オリンピック後も外国人建設技能労働者の就労を認めるかなどの問題もある。今後の労働需給状況と、工事の遅れ具合をにらみながら決断を迫られることになりそうだ。

参照元 : SankeiBIZ

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安倍政権、「外国人労働者」の拡大を検討 単純労働者受け入れも

2014年01月09日
 
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[東京 8日 ロイター] -建設現場などでの人手不足の対応策として、政府部内で外国人労働者の受け入れ拡大が本格的に検討されはじめた。3年間を上限と定めている技能労働者の滞在期間の5年間への延長について、年央までに結論を出す。

単純労働者の受け入れ解禁も中期的に検討対象に浮上している。ただ、政府・与党内には異論もあり、検討は慎重に進めることになりそうだ。

政府の産業競争力会議は昨年12月26日、「雇用・人材分科会」の中間整理で、技能労働者を受け入れる外国人技能実習制度の滞在期間を現在の3年から延長するよう、法務省の懇談会で議論し、2014年央までに結論を得ると盛り込んだ。

これに先立ち政府が設置した農林水産業・地域の活力創造本部がまとめた答申でも、実習制度の3年から5年への延長が盛り込まれ、法務省の懇談会で14年内に結論を得ることとなっていた。

外国人技能実習制度とは、日本の技術を途上国に移転し、人材育成を支援するために1993年から導入され、この制度による国内在留外国人は現在、約15万人となっている。

もともと日本企業が海外進出する際に、現地で採用する労働力の確保を主眼とした制度だったが、人手不足対策として同制度を使って外国人労働力を確保したいとの産業界の声が高まっている。

政府内でも「経済財政諮問会議では、2%の経済成長が必要としているが、逆算すると労働者足りない」(関係者)として、外国人労働力の必要を唱える声が出てきた。

このため技能実習制度の拡大に加え、特定の専門・技術分野を持たない単純労働者の入国も、時限的に緩和する案も政府部内で浮上している。

東南アジアの国々と個別に建設関係の資格を持った労働者について、時限的な受け入れを協議する案なども検討対象になる可能性がある。

もっとも政府内にも慎重な意見も多い。首相官邸や、財務省など経済系官庁は前向きだが「厚生労働省と法務省が慎重な立場」(政府関係者)だ。国内で職に就かず学校にも通わないニートが多数いる現状で、外国人労働を増やすことへの抵抗感があるほか外国人労働者の増加によって、治安が悪化するリスクを指摘する声も広がりをみせている。

菅義偉官房長官は8日の記者会見で、外国人労働者の拡大検討に言及したが、あくまで「慎重に検討する」と強調した。2020年の東京オリンピック開催や震災からの復興の中で「建設に関する人材不足や資材不足といった問題があることは承知している」と指摘し、「まずは若者をはじめとする潜在的な労働力の活用が大事だ」としつつ、「同時に、外国人労働力も、建設需要の規模や国内の労働市場、国民生活への影響などを踏まえながら、政府全体として慎重に検討していきたい」と述べた。

政府が労働力不足を成長の阻害要因と認め、単純労働者を含めた外国人労働者の受け入れ拡大にカジを切るのか、それとも現状維持的な判断を下すのか、2年目を迎えるアベノミクスの動向を大きく左右することになりそうだ。

(ロイターニュース 竹本能文 編集:田巻一彦)

参照元 : ロイター