太平洋戦争きょう72年 秘密保護法 また統制か

2013年12月8日 朝刊
 
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太平洋戦争の開戦から、きょう八日で七十二年。平和憲法を次世代に伝える活動をする「国民学校一年生の会」世話人の一人、前田波雄さん(79)=東京都大田区=は、その朝のことをはっきり覚えている。

官憲を恐れ、自由な発言ができなかった苦い記憶とともに。拡大解釈の恐れがある特定秘密保護法の成立に、「言論統制の時代がまた来るのでは」と危機感を強める。 (樋口薫)

「いよいよ始まったか−」。一九四一年十二月八日の朝七時、ラジオの臨時ニュースを聞いた両親の会話で、前田さんは日米開戦を知った。

当時は八幡国民学校(現・世田谷区立八幡小学校)の一年生。「お国のために」と軍国主義をたたき込まれた少年にとっては、胸躍るニュースだった。だが直後、父が漏らした一言に驚いた。

「もしかすると負けるかもしれない」。母の顔色が変わった。「子どもが学校で話したらどうするの。憲兵が来るよ」。朝食の手を止め、ものすごいけんまくで責め立てた。

「船乗りの父は世界の情勢を知っていたのだろう」と前田さんは振り返る。その朝の出来事は「気をつけて物を言わないと」という恐怖感を子ども心に植え付けた。

長野県飯田市に集団疎開中の五年生の時にも、苦い思い出がある。洋画好きの母から渡された白人女優のブロマイドを、万が一の時の形見にしようと大事に持っていた。それを同級生に見つかってしまった。

当時、洋画などの「敵性文化」はご法度。みんなに「おまえの母さんはスパイ」とはやし立てられた。うわさが広まれば、母は特別高等警察(特高)に逮捕される。平気な顔をしてすぐに破り捨てたが、その夜はふとんの中で泣き明かした。

周囲がお互いの言動を監視し、疑心暗鬼になった戦時中の生活を、前田さんは最近よく思い出す。六日に国会で成立した秘密保護法のせいだ。

「国民は、何が秘密かも分からないまま『秘密情報を得ようとした』と逮捕される恐れがある。戦況の悪化を伏せ、国民に『戦争反対』を言わせなかった時代が繰り返されるのではないか」

一方で、闇の中に希望も見いだす。友人に誘われて今春から始めたフェイスブックを介し、若者たちの中に秘密保護法反対の輪が広がる様子を目の当たりにした。

「お上の言うことを信じ切っていた当時とは違う。多くの人と危機感を共有するため、自分もまだまだ学ばなければ」

秘密保護法や解釈改憲など、民主主義や平和主義を脅かす動きが強まっている。戦争体験者の声に耳を澄まし、今の社会を見つめ直すシリーズ「伝言」を随時、掲載します。

<国民学校一年生の会> 従来の小学校よりも愛国心教育の色合いが強い国民学校が設置された1941〜46年度に、初等教育を終えた学年の同級生らが中心となり、99年に結成。「軍国主義教育を繰り返してはならない」と、定期的に勉強会などを続ける。会員は全国の約420人。特定秘密保護法が国会審議中だった11月には「治安維持法による暗黒の時代を再現させる」と、廃案を求める決議を国に送った。

参照元 : 東京新聞