残暑お見舞い申し上げます・首相への提言:/2 成長戦略 竹中平蔵・慶応大教授

2013年08月14日 東京朝刊

◇岩盤規制、特区で崩せ

私と同じ産業競争力会議メンバーの三木谷浩史さん(楽天会長兼社長)が6月の成長戦略を75点と評価した。いい線だと思う。残念ながら100点にはまだ遠い。農業への株式会社参入や混合診療解禁など、本当にやらなければいけない「岩盤規制」にほとんど手がついていない。

ただ、過去の政権の成長戦略と違い、「国家戦略特区」の創設という岩盤規制を崩すための装置が盛り込まれた。一刻も早く特区を設置して、どんどん活用する。これまで10年も15年も議論してまったく動かなかった規制を簡単には変えられないが、(次の衆院選までの)3年間で戦略的に解決していくべきだ。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」は理論的に100%正しい。安倍晋三首相は英国の故サッチャー元首相の言葉を引いて、よく「TINA」と言う。ゼア・イズ・ノー・オルタナティブ。ほかに方法はない。問題はそれをやり切れるかどうか。相当強い政治的コミットメント(関与)がいる。3年間のトータルプランと、3年後の仕上がりを明確にすることが非常に重要だ。

最高権力者たる首相はたいへんな力を持っているが、360度すべてを敵に回しては戦えない。一つずつ目標を絞ってやっていけるかどうか。首相が物価目標(インフレターゲット)導入で日銀に対して見せた姿勢、あの熱意と腕力を、今度は秋の成長戦略第2弾で見せてほしい。

首相が小泉内閣の官房長官だったころにおもしろい話をしていた。たまたまタクシーに乗ったら、運転手から「(新規参入を促す)規制緩和でおれの給料は下がった。その代わり、台数が増えたから失業していた息子も運転手になった。結果的に家族全体の所得は上がった」と言われたそうだ。これが規制改革の本質だ。小泉純一郎元首相と表現の仕方こそ違うが、安倍首相は改革の本質を分かっている。

もちろん競争によって格差が生まれる可能性はある。しかし、日本はそんなに激しい競争をしていない。どれだけ規制緩和が進んでいるかという世界銀行のランキングがある。2006年に28位まで上がったが、今(11年)は47位。この5年ほど、まったく改革に後ろ向きになっていたと言える。

特区を使って岩盤規制に切り込め。それに尽きる。【構成・水脇友輔】=つづく

安倍政権の経済政策「アベノミクス」の3本目の矢として政府が6月に閣議決定した。2017年度までの5年間を緊急構造改革期間と位置付け、雇用増や所得増を目指す。しかし、10年後に1人当たり国民総所得(GNI)を150万円以上増やすなどの数値目標は道筋があいまいで、市場の評価は今ひとつ。安倍晋三首相は、企業に設備投資を促す投資減税を中心とした新たな成長戦略を秋に打ち出す考えを表明している。


■人物略歴

◇たけなか・へいぞう
 
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一橋大経済学部卒。1973年に日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に入行し、慶応大教授などを経て、小泉内閣で経済財政担当相、総務相などを歴任。2004年から06年まで自民党参院議員。

参照元 : 毎日新聞





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